タワー(타워)

原題
타워
著者
ペ・ミョンフン
出版日
2020年2月20日
発行元
文学と知性社
ISBN
9788932036014
ページ数
316
定価
13,000ウォン
分野
小説

●本書の概略

人口50万人が住む、674階建ての超高層都市国家「ビーンスターク(Beanstalk=豆の木)を舞台にした6編の連作小説集。2009年に出版され、韓国SF小説の新しい可能性を見せつけるも絶版となっていたが、11年ぶりに加筆修正されて復刊された。昨年10月にはイギリスでも翻訳出版されている。

 

「動員された3人の博士-犬を含めた場合」

現職市長の再選阻止をもくろむ野党事務所の依頼で、微細権力研究所は現市長体制の権力の分布を分析し弱点をあぶりだす実験を行う。方法は、黙示的な請託の対価として使用される高級酒に電子タグをつけて上流社会に流通させ、その動きを追うというもの。たくさんの酒が流れ込む489階A57に住む映画俳優Pが陰の実力者かと思いきや、Pはなんと犬だった。

 

「自然礼賛」

低所恐怖症の作家Kは50階より下に行くことができない。なので、ビーンスタークから一歩も外に出たことがないが、いつからか大自然の美しさをほめたたえる文章を書くようになった。かつてのように社会問題に鋭く切り込んだ作品を書かないKに、新人編集者Dは理由を問いただす。すると、Dを出版社に就職させる代わりに、フリヒリアナの別荘が送られた事実が明らかになる。送ったのは政府と癒着して再開発を推し進める不動産業者で、それはほかでもないDの父親だった。

 

「タクラマカン配達事故」
エレベーターの傍に設置され、住民たちが移動の際に自発的に郵便物を配達する「青いポスト」。ある日、ビーンスターク市行政官のビョンスは、青いポストから預かった郵便物を数ヶ月放置していたことに気づく。差出人は恋人を追ってビーンスタークの市民権を取得すべく、空軍の民間下請け兵に志願中の男。配達事故の罪滅ぼしのつもりでビョンスは男の採用を陰で手助けするが、4年後、男がタクラマカン上空で撃墜され、軍からも見捨てられた状態であることがわかる。そしてそこから青いポストを利用した「善意の市民による救出劇」が始まる。

 

「エレベーター機動演習」

垂直輸送組合(エレベーター等の設備資本を持てる富裕層)と水平輸送組合(自分の足だけで働く労働者層)があり、直派vs平派が対立するビーンスターク。交通課に勤める「俺」は、エレベーターをどのように統制すれば非常事態に兵力を効率よく移動させられるかを考えるのが仕事で、一般に直派とみなされる。貧乏だった若かりし日に隣の部屋から伝わってくる暖房の熱に救われことを思い出し、昔の隣人の正体を探ってみると平派の中心人物だった。イデオロギーを超えた人間的な交流が始まるが、市長専用エレベーター付近で爆破テロが起こり、「俺」は情報流出を疑われ逮捕されてしまう。

 

「広場の阿弥陀仏」

故郷で問題を起こし、逃げるようにビーンスタークの民間警備業者に就職した義兄は、デモの鎮圧を担当する部隊に配属され、治安維持の目的で投入されたゾウの調教を任される。愛想をつかされた妻に自分のゾウに乗る雄姿を見せようと、義妹への手紙を通じて二人を支庁前広場に呼び出すも、当日、広場には反戦デモで5千人が押し寄せ、再会はめちゃくちゃに。

 

「シャーリアに忠実な」

ビーンスターク情報局の行政官チェは、敵対組織コスモマフィアからのミサイル発射に備え、首都を低層階に移転させる計画を任される。一方、コスモマフィアから送り込まれたテロリスト・シェフリバンは、D-dayに向けて不動産の買い占めに走る。そこは、ビーンスターク建設当初から爆弾が持ち込まれ、別のテロリストたちが数十年にわたり守ってきた場所だった。だが、D-dayに爆発は起こらず、テロリストたちは口々に「住んでみたらバベルの塔などではなかった」と語る。

●目次

動員された3人の博士-犬を含めた場合

自然礼賛

タクラマカン配達事故

エレベーター機動演習

広場の阿弥陀仏

シャーリアに忠実な

付録

作家Kの『熊神の午後』より

カフェ・ビーンストーキング-『520階研究』序文より

内面を知る俳優Pの「イカれたインタビュー」

タワー概念語辞典

初版作者あとがき

新版作者あとがき

推薦文‐チョン・セラン(小説家)

推薦文‐キム・ミジョン(文学評論家)

●日本でのアピールポイント

奇抜な発想でエンターテインメント性に富む小説だが、超高層ビル国家ビーンスターク内で起こる様々な事件-贈収賄、外国人労働者の使い捨て、イデオロギーの対立、地域格差、外交・戦争など-は現実の社会問題を投影している。今、日本でも韓国SF小説の翻訳出版が続いているが、常にその中心で活動してきたペ・ミョンフンの原点といえる『タワー』はぜひ読んでおきたい。

ペ・ミョンフン
1978年生まれ。ソウル大学外交学科卒、同大学院修士。2005年に「スマートD」が科学技術創作文芸公募に当選し、デビュー。短編集『アンニョン、人工存在!』『総統閣下』、長編小説『ぐるぐる宇宙軍』『神の軌道』『隠匿』『はじめのひと息』、童話『キイキイのとても重大な任務』、エッセイ『SF作家です』等を発表。2010年若い作家賞受賞。韓国SF作家連帯第1期副代表。 日本語で読める作品には、『目の眩んだ者たちの国家』(矢島暁子訳、新泉社、2018年)に収録された「誰が答えるのか?」がある。