『日常の言葉たち』(キム・ウォニョン、キム・ソヨン、イギル・ボラ、チェ・テギュ/著、牧野美加/訳、葉々社)

『希望ではなく欲望』(牧野美加訳、クオン)などのキム・ウォニョン、『子どもという世界』(オ・ヨンア訳、かんき出版)のキム・ソヨン、『きらめく拍手の音』(矢澤浩子訳、リトル・モア)のイギル・ボラ、そして獣医のチェ・テギュの4人の著者それぞれが、「日常の言葉たち」をキーワードに綴ったエッセイ集『日常の言葉たち』。コーヒーや本、病院といった身近な言葉や、怠惰やひんやりといった感情を表す言葉から連想されたエッセイはささやかで短いものですが、どのエッセイも読者に新たな観点を与えてくれます。キム・ウォニョンさんの「靴下」では、自分がはじめて靴下を履かせてもらったときのことを想像したり、キム・ソヨンさんの「ひんやり」では、季節は春夏秋冬の4個ではなく365個あるんだという発見に感動したり、さまざまに心が揺さぶられました。本書で取り上げられた日常の言葉たちから自分なら何を綴るだろうか、そんなことも考えさせてくれるエッセイ集です。訳者の牧野美加さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

このエッセイ集は、あるラジオ局のポッドキャストから生まれました。出演者は、キム・ウォニョン(作家、パフォーマー、弁護士)、キム・ソヨン(子ども向け読書教室運営)、イギル・ボラ(作家、映画監督、コーダ=聴覚障害の親をもつ聴こえる子)、チェ・テギュ(獣医)の4人。2週間に一度、キーワードが一つ提示されると、各自その言葉から連想したことや考えたことを録音し、それが配信されるというものでした。キーワードは全16個で、「コーヒー」「朝」「テレビ」「手のひら」など、いずれも「日常の言葉たち」です。そうやって生まれた計64の物語を一冊の本に編んだのが本書です。
多様な背景や活動分野を持つ4人によるエッセイは、同じ言葉からこんなにも多彩な物語が生まれるのかと感心するほど、実にバラエティーに富んでいます。読んでいると、なるほどとうなずいたり、思わずクスッと笑ったり、心がひりひり痛んだりと、さまざまな感情が刺激され、多くの気づきが得られます。読み終わったあとも、ふとその言葉に触れたとき、あの著者はあんなことを言っていたなと思い出したり、そこから自分の考えを膨らませたりと、読者と出合うことで大きく枝葉を広げていく作品です。
個性あふれる、色とりどりの物語が詰まった宝石箱のような一冊を、ぜひ手にとってみてください。チェ・テギュさん以外の3人はすでに邦訳作品があるので、併せて読むとより楽しめると思います。(牧野美加)

『日常の言葉たち』(キム・ウォニョン、キム・ソヨン、イギル・ボラ、チェ・テギュ/著、牧野美加/訳、葉々社)