『火葬』(金薫/著、柳美佐/訳、クオン)

第6回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」最優秀賞受賞作の一つ『火葬』(金薫/著、柳美佐/訳、クオン)。歴史小説で名を馳せている金薫の短編小説です。大手化粧品会社で役員を務める「私」が、脳腫瘍で闘病生活を送っていた妻、前立腺炎を患う自分、若い女性社員「あなた」への思いを語っていきます。病に冒され、死期の迫った肉体の描写がとても生々しい一方で、妻や自分とは正反対の若さを放つ「あなた」の描写は非常に繊細です。コントラストがはっきりしていて、金薫の様々な筆致を楽しめます。訳者の柳美佐さんからメッセージを頂戴しましたのでご紹介します。

韓国では知らない人がいない朝鮮の英雄、イ・スンシン将軍を描いた『孤将』(蓮池薫訳、新潮社)や、十九世紀の天主教迫害をテーマにした『黒山』(戸田郁子訳、クオン)、独立運動家の安重根を主人公にした『ハルビン』(未邦訳)など、重厚な長編歴史小説でベストセラーを出し続けているのが、本作の著者、金薫(キム・フン)です。2007年に発表された『南漢山城』(未邦訳)はイ・ビョンホン主演の映画『天命の城』の原作にもなっています。徹底的な資料調査と観察眼、そして簡潔で力強い文体は、歴史物だけでなく現代物の短編でも味わうことができます。
本作『火葬』は、2003年に書かれたキム・フン初の短編小説です。五十代半ばの男性の視点を通して、死期の近づく妻と、生命力あふれる若い女性の姿が描かれます。文壇からは、人間の死を肉体の消滅という観点から捉えた点が画期的だと評価されました。作品では、人間の体が壊れていく様子が淡々と残酷に描かれています。リアルな描写に目を背けたくなりますが、同時に命のメカニズムについても考えをめぐらすことになるでしょう。
この作品は、イム・グォンテク監督、アン・ソンギ主演で2014年に映画化もされています。ご興味のある方はぜひご覧になって、小説とは異なる部分を見つけてみてはいかがでしょうか。(柳美佐)

『火葬』(金薫/著、柳美佐/訳、クオン)