●本書の概略
日本の植民地時代に生まれた著者の母は、朝鮮戦争の時に南側に避難し、そのまま韓国に定着する。そして著者と生活を共にしながら、ちょっとした出来事を見たり聞いたりするたびに故郷を懐かしみ、その思い出を著者に少しずつ語っていく。あたかもひとつひとつ心の奥底から手繰り寄せるかのような、素朴ながらも生き生きとした咸鏡南道訛りの語り口は、読者の想像力を掻きたてる。
本書は、「世の中から消えてしまってはいけない本」として、韓国の放送局tvNの「役に立たない雑学事典」という番組のなかで紹介され、今年1月11日に改訂本が刊行された。それからすぐ16日には二刷が出るほど韓国の人びとの心を捉え、多くの人たちに読まれている。著者(漫画家)が80歳を過ぎた母親から聞いた家族の物語。かといって、単に一家族がたどってきた物語ではなく、母とその母が生きた激動の時代の歴史、村の情景や村人の生活、そこで起こった大小さまざまな事件が映し出されている。
●目次
新居/ミサン村の風景/クンパニの人となり/どうすることもできないこと/どんなに仲がよくても喧嘩をする/雲の上に乗った気分/板の間に娘がいる/信じるということ/中村組の李さん/誰か火をつけよ/雪の降るふるさと/新しい畑
●日本でのアピールポイント
本書の背景となっている1900年代初頭から2010年代に至るまでの間は、日本の植民地時代と一部重なっており、その影響は本書のあちこちに見られる。たとえば、土地改革という名目で土地を没収されそうになり、祖父が日本を相手に裁判を起こしたり、母の兄が日本の企業に就職したために一家が裕福な生活ができたり等々、本書を読むことで、日本の植民地時代に生きた庶民の生活と心情を垣間見ることができ、今後、日本・日本人は何と向き合わなければならないかを考えさせられるだろう。
また女性の一生という視点から見ても、祖母の7人の子のうち息子は1人しかいないのをよく思わない舅(著者の曾祖父)が、祖母につらくあたったり、女に尊いという意味の名をつけたことに嫌みを言ったりする場面は、一時代の日本と共通するものがある。日韓の政治的な関係が悪化している一方で、日本で韓国の本が大量に出版されるようになってきている今、本書は韓国の庶民の文化や生活様式を理解するうえで一助となるに違いない。
作成:中野宣子(なかののりこ)
[…] がたどってきた物語ではなく、母とその母が生きた激動の時代の歴史、村の情景や人びとの生活、そこで起こった大小さまざまな事件が映し出された作品。http://www.k-bungaku.com/yomitai/190427/ […]