●本書の概略
社会学者チェ・テソプが2015年以降に各メディアに寄稿した社会批判コラムをまとめた一冊。
韓国社会に蔓延る悔しさ、無念さ、やりきれなさとは何か。パク・クネ前大統領の友人チェ・スンシルが国政介入疑惑などで逮捕された時、カメラの前で「とても悔しい」と叫んだ。韓国はなぜ、被害者はもちろん、加害者さえも悔しさを感じる国になったのか。
2015年のMERS流行、2016年のチェ・スンシルゲート事件とキャンドルデモ集会、2017年のパク・クネ前大統領の罷免、そして2018年のme too運動まで、2010年代の主要な事件を、その当時SNSで広まったハッシュタグとともに順に追いながら、「やりきれなさ」という時代精神がリードする韓国社会の動向を、著者が考察している。
●目次
プロローグ:やりきれなさについて/2015 :いったい誰が何のためにこの苦痛を耐え続けようと言えるだろうか/2016 :もしかしたらこの国は一度も国民のために存在していなかったのかもしれない/2017 :必要なのは占領軍ではなく厳しい自己省察で鍛錬された民主主義者である/2018 :この卑劣な時間を終わらせなければならない/エピローグ: 不適切な時代の読み方と書き方
●日本でのアピールポイント
数年前、韓国では「ヘル朝鮮(地獄のような朝鮮)」という言葉が流行した。受験戦争、就職難、失業率の高さや貧困問題などに苦しむ韓国の若者たちが、生きづらい母国を揶揄した造語である。
本書では、韓国のさまざまな問題を取り上げて、韓国国民の悔しさ、無念さ、やりきれなさはどのように生まれたのかを、著者が鋭い視点で分析している。
では、我が国日本はどうだろうか。必死に働いても貧困から抜け出せない非正規労働者の増加や、試験で同じ点数を取っても不合格にされる女性差別問題など、やりきれないと感じるニュースが毎日のように報道されている今、同じように生きづらさを感じる日本人も多いだろう。この本で語られているのは、外国の話ではなく、われわれ日本人も乗り越えなければならない問題なのである。
この本を読むと、韓国が抱える問題を知ると同時に、その問題に立ち向かおうと声を上げる韓国人の力強さが端々に感じられる。同様の問題を抱える日本人のわれわれは、これからどのように立ち向かっていくべきかを考えさせられる一冊である。
作成:山口裕美子