K-BOOKフェスティバルの可能性について

                   K-BOOK振興会理事  舘野皙

 東京神田神保町の地下鉄出口、いつも賑わう交差点付近であるが、日曜日の午前中のせいか通行人の数は多いとはいえない。けれども目立つのは、連れ立った若い女性の意思的な動きである。水道橋駅方向を目指し、やがて右手の白い外壁のビルに吸い込まれていく。
その出版クラブビルでは「K-BOOKフェスティバル」が開催中である。ビルの3〜4階に参加出版社のブースとイベント会場が開設されていて、なかに入ると通路はほぼ来客者で塞がり、各ブースでは出版社スタッフと客のやりとりが最高潮、会場の賑わいは活気に溢れていた。静かな書店の雰囲気とはかなり異なっているので、戸惑った向きもあったかもしれない。来場者は女性が8割強、年齢は20〜30代が中心だろうか。こんなにまとまった若い女性を見かけたのも近来稀で、最近のK-BOOK人気を忠実に反映したものだろう。

ブースでの書籍販売は著者や翻訳者のサイン会やミニイベントが併設されたりもし、かなりの人気を集めていた。書籍を手に取って内容を確かめる機会に恵まれない読者にすれば、このように親しく本に接近できるこのとはうれしいものだし、出版社のスタッフにとっても励みになる。
また今回も、会場でのトークイベントなどを、全国各地でYouTubeで視聴できるように準備された。来場しなくてもその場の雰囲気に浸ることは十分に可能なので、わたしも初日は自宅でゆっくり堪能することができた。こうして10本近くの催しに参加することができたのだから、その波及効果たるや絶大だったといえる。

主催主側の発表によれば、2日間の来客者数は約2500名、各ブースでの書籍売り上げは予想を超える数字を記録したという。予定したイベントも順調に進行したので、この数年のコロナ禍のブランクを見事に乗り切ったわけであり、出店社やスタッフはじめ関係者の周到で細心な取り組みが、このイベントを成功に導いたと総括することができるだろう。

今回の催しはミニ版のブックフェアだったが、わたしの知る限り、韓国図書のフェアは、これまでソウルと東京の両都市で開かれてきた。ソウル国際図書展は現在も毎年6月に、大韓出版文化協会が主催し、江南の国際展示場で開催されている。参加出版社数も出展図書も最も多い韓国を代表する図書展で、関連イベントも多彩豊富に準備されている。ここでの出版や図書の未来に関するセミナーなどでの問題提示にはいつも示唆される点が多い。K-BOOKフアンにはぜひ一見をお勧めしたい。
さらに最近は地方出版社・書店などが地元自治体ともに、中規模程度の図書展をしばしば開いている。地方色溢れる催しで、加えて人間的な付き合いがウリになっているものが多く、いつも期待を裏切られることがない。韓国旅行のスケジュールに組み入れてみたらいかがだろうか。

東京でもかつては日本書籍協会主催の「国際図書展」が開かれていた。2013年には韓国が主賓国になり、韓国から出版社が多数参加、イベントも豊富多彩で韓国図書の歴史と現状を大々的にアピールした。秋篠宮夫妻と韓国スタッフとのやりとりも興味深いものだった。当時はK-BOOK人気が、いまほどは高揚していなかったが、いま思い返すと、あの催しが現在の「活気」への呼び水になったような気もする。この東京図書展、その後は休止になり再開の見通しは立っていないようだ。

今回の「K-BOOKフェスティバル」は、主催者は私も理事を務める日本におけるK-BOOK市場を拡大するために各種事業に取り組んでいる(一社)K-BOOK振興会と韓国国際交流財団である。ソウル・東京の国際ブックフェア級の、国を代表する出版団体が主催して大々的に開催するものではないため、参加出版社は40社(うち韓国から5社)と開催日数も二日間に限られてしまう。当時を知る人にとっては、規模の面では物足りなさもいくらか感じられただろう。しかし、参加出版社の熱意、主催者側のスタッフのネットワークと知恵はそのマイナスを遥かに埋め合わせるものだったと、自負してよいのではないだろうか。
参加出版社と来客の反応、イベントの効果も好ましく、現場スタッフの労を労いつつ、今後さらなる高みを目指してくれることに期待したいと思う。