●本書の概略
女であるという共通点、愛するがゆえの干渉。一見、平和に見える母と娘の関係は実に複雑だ。それぞれの人生そのものを貫くほどの影響力を持ちながら、あまりに日常に溶けこんだその関係性は、間違ったものであっても認識しづらい。本書はなかなか表面化しない「母娘の世界」へと深く切りこんでいく。
1章では、一心同体とも言える絶対的な関係が生み出す問題点を浮き彫りにし、2章で母たちが生きてきた時代背景や社会が決めつけた「良き母」のイメージが及ぼした弊害を挙げ、負の連鎖を断ち切るための3章へと導く。二面性・長女・更年期などをキーワードに、実例を交えてありがちなパターンも数多く紹介する。「母だから」「娘だから」の呪縛を解き、適度な距離とバランスを保って自分の人生を生き抜くために。すべての母、すべての娘へ、人間関係のプロであるキム・ジユンが贈る、女性としての生き方の教科書だ。
●目次
プロローグ 情緒的結合双生児になってしまう母と娘
1 愛情 愛という名の傷
2 調律 お互いをひとり立ちさせる不安要素
3 独立 母親を越えた自分らしさを求めて
エピローグ 母と娘、お互いに笑顔で見つめ合えるように
●日本でのアピールポイント
母の死後13年間も墓参りに行かなかったという著者自身の衝撃的なエピソードから始まる本書。振り返る幼少期からの葛藤、人生に落ちる母の影……そこに自分のいままでを重ねる読者も多いだろう。
娘はふとした瞬間、自分の中に母の痕跡を見つけ、母は娘に自分の叶えられなかった人生を託す。お決まりの構図は日本も韓国も同じだ。本書は、「母娘なんてそういうもの」と自分の気持ちに折り合いをつけてきた娘たちの感情の蓋を開ける。人格形成から結婚、育児まで絡み合うお互いの存在を再認識し、関係の根深さに恐怖を覚えることになるかもしれない。しかし、著者は決して読者を置き去りにはしない。丁寧な解説と解決に向けた小さなステップを提示し、長年のしがらみを抜け出そうとする女性の足元を照らしてくれるだろう。韓国のブックレビューには「誰も教えてくれなかった母との関係性を理解できた」など、女性たちの声が寄せられている。母親との関係に悩む方はもちろん、これから母になろうとする方にも読んでいただきたい。
日本での類書としては、本書にも引用されている『さよなら、母娘ストレス』(2017年、香山リカ、新潮社)がある。(旧題:怒り始めた娘たち「母娘ストレス」の処方箋)
(作成:髙橋恵美)