●本書の概略
誰でも一度は、自分以外の誰かになりたい、今の環境から抜け出したいと考えたことがあるだろう。まさに隣の芝生は青く見える、だ。
本書は、大人になっても夢を持つおじさんの想像の世界を描いた物語。見た目は大人だが、心は子供そのものだ。
おじさんが高いところにぶらさがってビルに色をぬっている。
そして、ふと思う。鳥になりたい。
翼があれば楽だろうな。歩かなくていいなんて楽ちん。
高いところにも簡単にのぼれるし、どこにでも飛んでいける。
鳥になれたおじさん。でも、雨が降ったら翼がぬれて飛べないし、寂しいときもある。
人間だったときは気にならなかったけれど、猫が怖い。最大の敵だ。
やがておじさんは猫になりたいという新しい夢をもつ。
はたから見れば羨ましい他の人生も、いざ生きてみると、あれ?やっぱり大変でうまくいかないものだとわかる。そしてまた別の誰かを羨ましく感じる。
結局は、どんな人生でも自分の思いどおりにはならず不便で大変なこともある、自分に与えられた人生も大切だな、ということを大人にも子供にも独特の絵で伝えてくれる絵本。
●日本でのアピールポイント
本書は「ネバーランド、私たちの傑作」シリーズの19作目。
著者のハン・ビョンホは、絵本とは「大人がまず読む本」と定義している。子どもだけでなく大人も一緒に読んで共感できなければならないと思っているのだ。
本書もその気持ちが込められた作品だ。大人なら、朝起きて仕事に行きたくないな。子どもなら、学校に行きたくないな。犬は一日中家で寝ていていいな。○○ちゃんの家はよく旅行に連れていってもらえるけど、僕の家はどこにも連れていってもらえない。そんな誰でも抱えている不満から想像力をはたらかせ別の世界にいざなってくれる。
大人も子どももそれぞれ思う存分に想像力をふくらませた後には、どんな人生も大変なんだね、ということを共感しながら読める作品である。ぜひ、大人も子供も一緒に手に取って楽しみ、そして考えてほしい。そんな絵本だ。
(作成:小倉エレナ)