●本書の概略
格差がどんどん広がっている今の韓国では、「平等でないこと」に皆が怒っているように見えるが、実はそれは「公正でないこと」への怒りなのだ。能力の低い人が恩恵を得られないのは仕方がないが、非正規社員を正規職に転換するような制度改革には我慢できない。その根底には、個人の能力差は明らかだから、能力の低い人は取り分が少なくて当然だという能力主義がほとんどの国民の意識に染み込んでいることがある。社会の格差がひどくなり、韓国が真の先進国家になれていない原因はまさにその能力主義にある。本書は、能力主義の誤りを具体的に指摘し、疲弊した社会から脱するための方策を提案する。
●目次
プロローグ:「それには我慢できてもこれは我慢できない!」
第1部 形成
第1章 過去の制度、韓国能力主義の起源?
第2章 自然化した能力主義:社会進化論
第3章 立身出世主義と教養物神主義
第2部 現代の韓国
第4章 学力主義と能力主義の不思議な関係
第5章 エリートはどのように「モンスター」になったのか
第6章 韓国能力主義の特徴
第3部 価値観と民主主義
第7章 「私たちはどんな民族なのか」と尋ねたら
第4部 能力主義批判
第8章 不平等そしてイデオロギー
第9章 「理想的能力主義」批判
第5部 方策
第10章 道はきっと見つかる、いつもそうだった
エピローグ 最後の能力主義者
注
参考文献
●日本でのアピールポイント
過度な能力主義が社会の歪みとして問題になっている韓国の状況は日本も他人事ではない。能力の低い人は社会の恩恵を受けることに制約があって当然だと考えて疑わない風潮が日本の社会にも広がっているのは事実だ。賛否両論はあるものの「自己責任論」が幅をきかせているのも能力主義と無関係ではない。
韓国の能力至上主義は、その歴史や社会の形成過程によるところもあるが、日本でも能力主義が当たり前に受け入れられている状況を見ると、民主主義の価値観を共有する両国においては、問題への対応策にも共通点があるはずだ。能力主義からはじき出された人々を社会の片隅に追い込んで苦しめる世の中は、物心ともに豊かな国とは言えない。本書には、そうならないために日本人が日本社会でできることを考えるためのヒントがある。
(作成:伊賀山 直樹)