加害者たち(가해자들)

原題
가해자들
著者
チョン・ソヒョン
出版日
2020年10月25日
発行元
現代文学
ISBN
9791190885362
ページ数
151
定価
13,000ウォン
分野
小説

●本書の概略

当代の最も現代的、先鋭的な作家たちが送る<現代文学PINシリーズ小説選>31作目として出版された作品である。集合住宅での騒音問題を題材に、現代を生きる人々が抱える痛みを描き出す。

孤独が生み出した実体のない音が、母の人生を食い潰した――壊れゆく母の姿を前に、17歳のユンソは呟く。
ユンソの母は、家族で住むマンションの上・下階、隣室との間で騒音をめぐり激しい応酬を繰り広げていく。上階の住人が慌ただしく動く音、子供が走り回る音。自分を苦しめる騒音が、夫や娘(ユンソ)には聞こえないと言う。実は上階に住む一家は、騒音防止カーペットやスリッパを使用し、極力気をつけながら生活している。微かな生活音すら、ユンソの母にとっては心身に不調をきたすほどの騒音だった。
下の階では、新生児の母親が苦情を受け悩む。新生児が泣くのをどうやって止めろと言うのか。理解を求めるが、ユンソの母の仕返しは酷くなるばかりで、やがて壮絶な騒音合戦となる。
「母は元々寛容な人で、姑に辛く当たられても笑ってやり過ごしていた。けれども体調を崩し、日差しや風、冷蔵庫の冷気にまで過敏になり、外出もできなくなってから変わり始めた」とユンソは回想する。母親が病んでいった背景には家庭の事情、特に姑との葛藤があった。
上・下階の住人は引っ越して行き、次に隣室が標的となる。隣に住む女性は、非協力的な夫と離婚し、騒音ストレスが原因で職を失い、子供の養育権まで奪われ、孤独の身となっていた。何故か真上の部屋からの騒音が酷くなり、ユンソの母親が真上の部屋に移って自分に嫌がらせをしているに違いないと確信する。
ところがその頃ユンソの母は入院しており、家にはユンソ一人が残されていた。「母はマンションにはいません」といくら言っても女性は信じず、ついに上の階へと駆け上がって行く。そして玄関前でユンソの母親を待ち伏せし、中から人が出てくるや否やナイフを振りかざした。ところが、血を流し倒れているのは騒音トラブルとは無関係の、試験勉強をするために一週間ほど滞在していた学生だった。

●目次

加害者たち
作品解説
作家のことば

●日本でのアピールポイント

誰もが被害者、加害者のどちらにもなり得る騒音トラブルは、日本に住む我々にとっても最も身近な問題の一つである。そして、それは単に音を下げるだけでは解決しない様々な問題を投げかける。
例えば、ユンソの母が姑から温かく迎えられていたとしても、このような結果を招いたのか。何故、どの世帯も実際に闘っているのは女性だけなのか(夫たちは平和的な、耳触りの良い言葉を並べるが何もしない)。孤独の中、母と同じ道を歩むのではと予感するユンソの将来を守ることはできるのか。自分に悪態をつく相手にさえ「一人でいるよりはいい、とても寂しい」と涙を流す姿に胸が痛む。日本の読者にも、身近にいるユンソを知り、見守るきっかけになればと願わずにいられない。

(作成:藤村道子)

チョン・ソヒョン
1975年、ソウルに生まれる。弘益大学芸術学科、ソウル芸術大学文芸創作科を卒業。2008年、文化日報新春文芸にてデビュー。短編集『あなたに似た人』(表題作は2021年にドラマ化)、『品位ある生』など。若い作家賞、キム・ジュンソン文学賞、韓国日報文学賞受賞。2022年、『その時その心』で現代文学賞受賞。