いきものずかん―ママ(엄마 도감)

原題
엄마 도감
著者
クォン・ジョンミン
出版日
2021年7月16日
発行元
ウンジンジュニア
ISBN
9788901251509
ページ数
48
定価
13,000ウォン
分野
絵本

●本書の概略

赤ちゃんの目線で母親という生物の1年間の成長を観察し、図鑑のようにまとめた絵本。「顔」「体のつくりと機能」「食事」「睡眠」「排便」など15の項目に分けて赤ちゃんから見た母親の生態を紹介しており、直接書き込める「巻末クイズ」や「観察日記」まである凝ったつくり。
この本の中では親子の立場を反対にし、母親が毎日赤ちゃんを観察するのと同じ視点で赤ちゃんが母親を観察し、解説をつけている。ちなみに、赤ちゃんの目にうつる母親は「いつもニコニコ笑顔で元気いっぱいのママ」ではなく、「つねに疲れた顔で、眠そうだったり深刻そうなママ」だ。それを心配したり、迷惑がったりする赤ちゃんのコメントがユーモアに富んでいる。
著者あとがきに『母親は赤ちゃんと一緒に生まれる新生人類です。新生児の成長に関する報告書はたくさんあるのに、新生母に関する研究はまだまだです。何もかもが初めてで、24時間孤軍奮闘している“生まれたばかりの母親”を思ってこの本を作りました』とあるように、この本には、慣れない育児にヘロヘロになりつつも、毎日頑張る母親たちへの応援のメッセージが込められている。

●日本でのアピールポイント

子どものための読みものというよりは、子どもを持つ母親のための絵本である。0歳から2歳くらいの子どもを育てている人、育てたことがある人ならきっと、自分の育児を全肯定された気分になるだろう。
この絵本に出てくるのは、ろくに眠れもせず、毎日よれよれの部屋着のまま、ひとり孤独に戦う(私たちとまるっきり同じ)母親。日々くたくたの体をひきずり、必死に悩んで、一喜一憂しながら暮らしている。それをここでは「赤ちゃんが生まれた日=ママが生まれた日」と定義し、もし赤ちゃんが自我を持って母親の成長を観察していたらという仮定で、ちょっぴり上から目線で母親の様子を語る。そのシニカルさが味だ。
たとえば、ゆっくりトイレにも行けない生活を、赤ちゃんが『生後3ヶ月まではトイレの中にまでついていってあげないといけません』と言う場面では、クスっと笑いがこぼれ、思わず脱力してしまう。ほかにも、出かける準備だけでも一苦労の大きなマザーズバッグを指して、『ママは外では勝手に赤ちゃんのローションを使います。ちゃんと自分のモノを用意しましょう』などと言う。
それらがどれも、母親たちが日々頑張っているポイントを見事についているため、読者としては、必死に子育てにはげむ自分自身の姿を一歩引いたところから眺め、共感したり、切なくなったり、思わず微笑んだりすることになる。現在乳幼児を抱える人たちにとっては、自分の育児を認められ褒められた気分になる一冊に、育児が落ち着いた人たちにとっては、不器用だったけれど精一杯臨んだ赤ちゃんとの時間を懐かしむ一冊となるだろう。
子どもが自分で読んでこの本の面白さを分かり始めるのは、小学校高学年以降だろうか。

(作成:生田美保)

クォン・ジョンミン
絵本作家。これまで発表した作品に『不思議な国の絵事典』、『私たちのはあなたのことを少し知っています』、『賢いイノシシになるための手引き』などがある。