『世界でいちばん弱い妖怪』(キム・ドンシク/著、吉川凪/訳、小学館)

クイックオバケさんの装画と赤い帯が一際目につく『世界でいちばん弱い妖怪』(キム・ドンシク/著、吉川凪/訳、小学館)。小説の勉強をしたことがなく、学歴もなく、本も読まない自分の文章が本になっただけでも不思議なのに、日本語になって日本語版が出ることに、不思議なことが果てしなく続いているとキム・ドンシクさんは著者まえがきで語っています。そんな著者が生み出した不思議な世界には、触れるものすべてを黄金に変える黄金の身体を持った悪魔、命乞いをする世界でいちばん弱い妖怪、温泉につかっている人間でダシを取る妖怪世界の料理人など、悪魔や妖怪、魔法少年が次から次と登場して人間どもを大騒ぎさせます。妖怪たちに人間の本質を暴かれているようでゾワゾワしたり、くすっと笑いがもれたりして、頁をめくる手が止まらなくなるショートショートです。訳者の吉川凪さんにメッセージをいただきましたのでご紹介します。

子供の頃のキム・ドンシク(1985~)は、ゲームだけを楽しみに暮らす貧しい少年でした。彼は中学を1年で中退し、鋳物工場で灰色の壁を見ながら高温の亜鉛を型に流し込む仕事を10年続けました。その頃、退屈のあまり荒唐無稽なおはなしを空想してインターネットの掲示板に投稿してみたら、おもしろいという書き込みがたくさんつき、人に喜んでもらえるのが楽しくて3日に1篇のペースでせっせと投稿するようになったそうです。それが『キム・ドンシク作品集』全10冊として刊行されるやベストセラーになって出版界を驚愕させ、人気作家キム・ドンシクが誕生しました。本書はその第2巻を訳したものです。短く簡単そうな物語なのに、読んでいると妙に人間の本性や現代社会の深い真実に通じていると感じる瞬間があって、ギョッとさせられたり、ホロッとさせられたり、ギクッとさせられたりします。ひょっとしたらこれは小説ではなく、今までになかった経験をさせてくれる、新しい何かなのかもしれません。小学館のサイト「小説丸」に動画と解説があり、試し読みもできます。(吉川凪)
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『世界でいちばん弱い妖怪』(キム・ドンシク/著、吉川凪/訳、小学館)