●本書の概略
現在25歳の筆者は大学受験の浪人中に難病クローン病と診断された。受験を突破して延世大学に入学したものの様々な症状に苦しみ、厳しい食事制限を受けるなど学生生活を謳歌するわけにはいかない日々を過ごす。高校時代はバドミントンの選手で、ソウル市代表になるほどのスポーツマンだったが生活は激変した。
消化器系の慢性疾患で自己免疫疾患の体は外見上、「普通の若者」に見える。急な症状でどんなに苦しんでいても、本当に病気か? と疑いの目で見られる。肉体的な苦痛と夢を追えなくなった苦しみを抱えて「病気と生きる青春」を送るうち、韓国社会が抱える矛盾が筆者の目にはっきりと見えてくる。
障害者に等級をつける現行の福祉制度の暴力性、法の定める障害者雇用に応じない企業の不当性など、筆者は障害者や難病患者を取り巻く状況をつぶさに観察し、その問題点を批判する。
同時に筆者は自らの病状を詳しく語る。難病患者の彼には就職など見通せない。誰でも病気にはなり得るのに、病気を抱えた途端に社会からはじき出される。韓国社会は健康であることが前提の健康中心社会だ。コロナ禍の中、「K防疫」(韓国政府のコロナ対策)がもてはやされているが、基礎疾患を抱える人々の死は「仕方のないこと」と見られ、病気はますます「克服すべき対象」とされていく。筆者は誰も取り残されない、病気を抱えながらも居場所があって働ける社会への変革を訴える。変革への鍵は「難病への想像力」だ。そのためにも自らを語ろうと障害者や患者たちに呼びかけ、世界は変えられると希望を語る。
●目次
境界の外に押し出される
世界を広げる
線を見つめる
隙間を広げる
境界線上を生きる
付録:持病を抱える大学生へ
●日本でのアピールポイント
障害者や難病患者の日常に私たちはどれだけ想像力を働かせているだろうか。難病や障害を抱えていても望む生き方ができる社会に変えようという筆者の訴えは日本でも共感を呼ぶに違いない。
本書では韓国で話題になったCMやニュースが取り上げられており、韓国社会の様々な断面にも興味をかきたてられる。サムスンの弱視者に対する支援技術や通信企業KTの声を取り戻す技術、軍隊とトランスジェンダー、政治家の即席ボランティア体験、K防疫の現場などを筆者の鋭い眼差しを介して知ることで韓国社会への理解も深めることになる。またコロナ禍の中、格差社会の日本でも生きづらさは一層の広がりをみせており、筆者の視点から日本社会のありようをも見つめ直すことになるだろう。
難病と共に生きる若い筆者の熱い視線と冷静な分析には説得力がある。日本の読者にぜひ届けたい一冊だ。筆者は今も「コロナ以後」を見据えながら、インターネットにコラムを書き続けている。
作成:村山哲也