『ノマと愉快な仲間たち 玄徳童話集』(玄徳/著、鄭玄雄/画、新倉朗子/訳、作品社)

暮らし向きは厳しいけれど元気いっぱいでやんちゃな男の子ノマと、年下のトルトリ、女の子のヨンイ、裕福な家の子キドンイ、この4人の子どもたちが繰り広げる日常を描いた『ノマと愉快な仲間たち 玄徳童話集』(玄徳/著、鄭玄雄/画、新倉朗子/訳、作品社)。韓国で幼年童話の古典といわれている玄徳(ヒョン・ドク)の童話集です。主に1930年代の後半に書かれた作品で、舞台はソウルの路地裏です。キドンイの水鉄砲が欲しくてしょうがなくて、どうすれば作れるか考えてみたり(「水鉄砲」)、「鍾路、和信百貨店前……」と電車ごっこをしながら、キドンイを仲間はずれにしたり(「電車ごっこ」)、汽車を見にいくつもりが、ブタにつられて迷子になったり(「汽車とブタ」)、4人の日々はとても素朴でかわいらしくて、思わず笑みがこぼれてしまいます。兵隊ごっこをしながら、どうしたら大将になれるか考えたり(「ノマの勇気」)、8月15日を迎えて、この国の貧しい人びとのために身をささげようと大決心したり(「大きな決意」)、時局を反映したものもあります。ノマたちのお話26篇と、短篇小説1篇が収録されていて、表紙の絵や挿絵は、玄徳の童話がはじめて世に出た時のものです。鄭玄雄(チョン・ヒョヌン)の絵から当時の雰囲気が存分に伝わってきます。訳者の新倉朗子さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

玄徳(ヒョン・ドク)は1909年ソウルに生まれ、豊かな幼年時代を過ごしたのち父親が事業に失敗して家産を失ったためどん底の青少年時代を経験しました。その後文学に目覚め、1932年に童話「コムシン」で日刊紙の公募に当選して認められます。生誕百年の少し前、2007年には、仁川にゆかりの深い人物の一人として近代文学館で企画展「ノマと行く童話の旅」が開かれました。その際、平和絵本『とうきび』で知られるキム・ファンヨンがノマと仲間の4人組を楽しいイラストで飾りました。玄徳は40篇ほどの童話に天真爛漫ないたずらっ子ノマとその友だちの日常を描き、ノマの作家として知られています。玄徳の名前になじみがなくても韓国ではノマを知らない人はいないようです。童話が集中的に発表されたのは1938年と1939年で、昭和の初め頃にあたります。「誰それちゃん遊ぼ」と声をかけあって、路地や空き地で泥んこになり、汗をかいて夢中で遊んだ子どもたち、今は日本ばかりではなく、韓国でもそんな光景は見られなくなったようです。テレビもゲーム機もなかった時代、ノマたちはどんな工夫をして遊んだのでしょうか。貧しくても想像力をふくらませて楽しく遊ぶノマたちの物語を読んで、現代の子どもたちは新しい発見をするようですし、大人の読者は懐かしさを感じると共に子どもたちが自律的に解決していく姿に気づかされることが多々あるかに思われます。「ノマのいない韓国の児童文学は想像しがたい」と言われるほど存在感のある玄徳童話の世界、一度覗いてみてはいかがでしょう。(新倉朗子)

『ノマと愉快な仲間たち 玄徳童話集』(玄徳/著、鄭玄雄/画、新倉朗子/訳、作品社)