はじめて読むじんぶん童話シリーズの4作目『ソクラテスのいるサッカー部』(キム・ハウン著 崔 真碩訳)をご紹介します。
サッカーが大好きなトンヨンは試合に勝つことだけにこどわっています。サッカー部の監督としてトンヨンの前に現れたソクラテスと、サッカーの授業を通して、うわべだけでない本当の実力を身につける方法、自分一人ではなくみんなと一緒にするサッカーを学んでゆきます。
『ソクラテスのいるサッカー部』
「幸せは徳でつくるものだ。徳があって初めて幸せなんだ。きみがゴールを決めたのに、だれも喜ばなかった。それでもきみは幸せになれるだろうか?」
(中略)
「これは、わたしがサッカーをしていて負った傷だ。あのとき、相手がバックタックルをしたのだが、スパイクに足が切られた。しばらくまともに歩けもしなかった」
「それで?」
「きみはサッカーとはゴールだと言った。ゴールさえ決めればいいんだと。だからわたしは聞いたんだ。幸せかと」
「……」
「トンヨン?」
「よくわかりません。だけど、試合をしたら、無条件に勝たなくちゃなりません。一等にならなければ、意味がありません。オリンピックで金メダルをとった選手たちは表彰台で笑って喜びますが、銀メダルの選手は頭を下にして泣いています。それはすべて、一等になれなかったためです」
(中略)
「ときどきこの傷を見ながら考えるんだ。無条件に勝つ、一等になればいい、ゴールだけを決める、それに何の意味があるのかと。さっききみがビョンゴンにしたバックタックル、あれはプロサッカー選手たちの間でも警告に値する」
トンヨンは下を向きました。
「勝ちたかったんです」
ソクラテス監督がトンヨンの頭をなでました。
「みんながきおくするのは、ひきょうな一等だろうか、美しい二等だろうか? おそらく正々堂々と戦って決めたゴールであれば、みんなが喜んだだろう。それが徳というものだ」
(本文79~81ページ)