●本書の概略
いつからか人中(じんちゅう)の無い子供達が産まれるようになった。鼻と唇の間がぷっくりと突き出し、上唇が丸まった特徴的な顔をしていた。子供達には共通の特徴があった。過去の記憶を持って産まれて来るのだ。この子供達は生後三十六か月を過ぎると突然沈黙を破り、過去の記憶を語り出す。
元人気モデルのジヨンとカメラマンの夫ソクフンの間に産まれたキファンは、人中の無い子供だった。キファンは他の子供達とは異なり、時期が来ても一切言葉を発せず、毎晩のように悪夢にうなされ続けた。生後六十か月になったとある日、テレビに映った村を見て初めて「僕の家」という言葉を発するが、その後は再び口を閉じてしまう。ジヨンは20年前に原因不明の病で次々と人が死に、今では廃村となったジョンファ村にキファンが関係しているのでは、と考える。
一方、その村で産まれ育ったが、大学進学で村を離れていて生き残ったミド。彼女も村で何が起こったのか原因究明をしようとしていた。そして東南アジアの貧しい村で発生している病気と、ジョンファ村で発生した病気の酷似性に気付き、ある人物から父親が勤めていた精肉工場で作られた「腐らない肉」が原因との情報を得る。キファンが村の住人の生まれ変わりだと信じたミドは、村で起こったことを彼から聞き出すことに成功。推測通り、ソクフンの父親が臓器移植用に遺伝子操作し、失敗した奇形豚から作った生成肉が全ての原因だった。貧しい国に密かに輸出されていた筈の肉を、父親がミドの医大合格祝いにと工場からこっそり持ち出して村人に振舞い、多くの命が失われたのだ。
ソクフンの父親が作った豚で初めて移植に成功したジヨンの母親。ジヨンの息子キファンはその証拠を隠滅しようとして亡くなったミドの兄。人々は人中のない子供を通して複雑に絡みあっていたことに気付く。
●目次
プロローグ
1. 一番幸せな瞬間、過去から来た子供がやって来た
2. コモドドラゴンは獲物を逃さない
3. 忘れたい記憶
エピローグ
●日本でのアピールポイント
本小説はジャンル小説専門出版社Gozknockエンターテインメントが、世界に通用するスリラー小説を韓国からも排出しようと企画した「Kスリラー」シーズン3の最後に出版された。シーズン1からは日本語に訳された『あの子はもういない』(作/イ・ドゥオン、訳/小西直子、文藝春秋)も出ており、知っている人も多いだろう。この出版社はオリジナルの小説などを元に映画やドラマを制作するのを得意としており、Kスリラーにもドラマ化などが決まった作品がいくつもある。この作品も既に映像化の契約が済んだ状態だ。