イ・ギフンさん原画展とトークショー(韓国通信)

2010年のボローニャ国際絵本原画展で入選したイラストレーター、イ・ギフンさんの原画展とトークショーが昨年11月から今年1月にかけて釜山の児童書店「책과 아이들」(本と子どもたち)で開かれました。開催から半年ほど経ってしまいましたが、興味深いイベントでしたのでご紹介します。

イ・ギフンさんはボローニャ入選作『양철곰』(ブリキのくま)をはじめ『빅 피쉬』(ビッグフィッシュ)、『』(卵)の計3冊の「字のない絵本」を出しています。書店内のギャラリーには3冊の原画や新たに描かれた絵などが多数、展示されていて、共同代表であるキム・ヨンスさんが解説してくれました。いずれも非常に緻密な絵で、見る人の目を釘付けにします。

『ブリキのくま』は環境問題がテーマです。自然が破壊され誰も住めなくなった地球から人々が脱出していく中、ブリキのくまは残ります。体の中のどんぐりのためです。体が錆びていくのも構わず、どんぐりが芽を出すことを願って自分の体に水をかけ続けます。結局ブリキのくまは死んでしまいますが、どんぐりはやがて芽を出し都市をよみがえらせる、というお話です。
『ビッグフィッシュ』は人間と動物の共存をテーマとしています。舞台はひどい干ばつに苦しむ村。水を吐き出す不思議な魚の壁画を洞窟内で見かけた村人たちはその魚「ビッグフィッシュ」を探しに行き、捕まえてきます。動物たちの反対を無視して、村人たちはビッグフィッシュを檻に入れて人間だけのものにします。やがてビッグフィッシュが吐き出した水で大洪水が起こり、動物たちが続々と船に乗る中、人間は……という、ノアの方舟の物語も織り交ぜたストーリーです。

 

 

 

 

 

 

この2作は地球の生命体の一員として人間はどうあるべきかを問いかける内容ですが、最新の『卵』はそれらとはかなり雰囲気の違う、とても微笑ましい内容です。ひよこを飼いたい女の子がこっそり家の冷蔵庫から卵を自室に持ち込み、布団をかぶせて温めます。でも卵からかえったのはライオンやキリン、ゾウ、シマウマ、サイ……。部屋の中は動物園状態です。女の子はお母さんに内緒で育てますが、やがて動物たちと遊びに行った湖でクジラに飲み込まれてしまいます。女の子が突然姿を消して嘆き悲しむお母さんのもとに1羽の鳥がやってきて卵を1個置いていきます。さてその卵の中は……?という、奇想天外で好奇心をかきたてるストーリーです。

 

 

 

 

 

 

原画展の期間中、忠清北道堤川市在住のイ・ギフンさんを招いてのトークショーも開かれ、親子連れを中心に大勢の人が訪れました。気さくな話しぶりに引き込まれるように大人も子どもも興味津々で聞き入っていました。イさんが絵を描く仕事をするようになったのはお父さんの影響があったそうです。朝鮮戦争が勃発する直前の1950年5月に生まれたお父さんは画家という夢を持ちながらも時代的にそれを叶えるのは難しく、労働者として一生を過ごしました。その姿を見ていたので、自分はやりたいことを見つけてそれを叶える人生を送ろうと、イさんは子どものころから思っていたそうです。小学生のころから漫画を描き始め、やがて進学した美術大学の図書館で偶然、ガブリエル・バンサンの『アンジュール――ある犬の物語』を見かけたのがきっかけで、字のない絵本の制作を目指すようになります。絵を描く仕事を本格的に始めたのは22歳になってから。「絵は持って生まれた素質や才能が大きいとよく言われるが、絵を描くのが好きという気持ちそのものが才能で、残りは努力だと思う。好きだからこそ絵を描き続けられる」という話が印象的でした。
具体的な絵本の制作過程も紹介してくれました。まず、ストーリーを文字で書いて段落に分け、それを絵にしていきます。一つのカットもさまざまな角度から何枚も描いてみて、どれが一番よく伝わるかを検討するそうです。どうしても文章がないと説明できない場面もあって苦労すると話していましたが、3冊とも見事に絵のみで表現しきっています。『ブリキのくま』の制作には6~7年かかったそうです。質疑応答の時間には子どもたちも積極的に質問していました。現在制作中という次作の絵本も楽しみです。(文・写真/牧野美加)