●本書の概略
これはSFをはじめ多様なジャンル小説や作家について『ファンタスティック』『プレシアン・ブックス』『韓国日報』などに記事を掲載してきたSFコラムニスト、シム・ワンソン初の単行本だ。
彼女がSFについて書く理由として、「紙面を与えられた以上、面白い話をする責任がある。自分が面白いと思い、他人にも面白いだろうと信じてSFを語る」のだと言う。SFとは二度と以前には戻れない状態に世界を変えるジャンルであり、生きたことのない世界を体験させてくれるものだ。まだ白人男性ばかりが物語や映画の主人公となることに社会的に疑問を抱かれなかった時代、SFでは女性や有色人種などが重要な役割を担い、それが受け入れられていった。なぜならばそれはSFだからだ。そして人間が宇宙人と出会い、異なる生物や文化と関わることで、それが実際の社会においても人種の違いや文化の違いを受け入れる土台になったのではないだろうか。今の世界を見るのではなく、まだ知らぬ世界に進んで行くものがSFだからだ。この本では『スターウォーズ』シリーズなど様々なSF小説を紹介しながら当時の時代背景と共にSFというジャンルがどのように時代を反映し、共に成長して来たかを知らせてくれる。SFというジャンルにおいて女性作家がどのように受け入れられて来たかが語られ、SFというジャンルにおいて有名な古典作品、受賞作品達が語られ(スタートレックについての考察も面白い)、SFを通じて様々な未来の形を見て、近年の韓国におけるSF作家が取り上げられる。SFというものを初めて知る人には異なる時代、異なる種類の作品を満遍なく知ることができ、SF好きにとっても過去と未来を繋ぐSFの流れを知ることができる貴重な一冊だ。
●目次
SF、別世界を体験する機会
01 亀裂を探す女性達
02 魔法と幻想と科学の交わり
03没落する未来、反発するSF
04 もう少し近くの話
●日本でのアピールポイント
近年韓国においてSFというジャンルが人気を得ている。韓国の若いSF作家が増えて来たことを見てもそれを感じることができる。そしてそれらの本は日本語にも訳され、日本でも注目を集め始めている。この本はそんな時代においてSFというジャンルを改めて深く知ることができる、そんな一冊だ。日本でもスターウォーズやスタートレックなどを聞いたことがない人は少ないと思うが、この本ではそれらの作品がどのような時代背景の中で作られ、社会的にどのような役割を果たして来たがか語られている。これらの作品を見たことのある人には堪らない、所謂「ビハインド」的な事を知ることができるのだ。日本では長い間SFが受け入れられて来たが、改めてSFというジャンルを見直し、まだ出会ったことのない作品に出合うためにうってつけの本と言えるだろう。
(作成:繭羽)