地獄万歳(지옥 만세)

原題
지옥 만세
著者
イム・ジョンヨン
出版日
2020年3月31日
発売元
サンジニ
ISBN
9788965456483
ページ数
256ページ
定価
14,000ウォン
分野
YA

●本書の概略

社会のレールから外れて生きる人々を描き、現代の課題を追及してきた作者が、初めて発表した青少年向けの作品。

主人公ピョンジェは、どこにでもいる高校1年の男の子。
ある晩、転校してきたばかりで、男子生徒の憧れの的になっていたシアに突然襲われる。ピョンジェには思い当たるふしがない上に、皆にその夜の出来事が誤解されてしまう。一部始終がCCTVに映っていたのだ。それ以来気の休まる日はない。嫉妬に狂った先輩からの嫌がらせとシアの暴行の悪循環。それに加えて皆からの冷やかしをはらんだ大合唱。しばらくは必死に耐えていたものの、繰り返しシアに殴られているうちに、突然何もかもぶちまけたくなった。
「キミのせいだ」。
訴えたおかげで暴行と嫌がらせはパッタリやんだ。
ようやく平穏な日々が戻ってきたが、それも束の間。
再開発地域に住むシアが強制的に立ち退きさせられる現場を目撃したピョンジェは、思わずシアをかばった。その後彼は徐々にシアを一人の異性として意識し始めた。

誰の力も借りずに地獄から抜け出したピョンジェ。平凡な少年が、一人の少女と関わるうちに成長していく。高校生たちの日常のやりとりが面白く、どんどん読み進められる。また、再開発問題、社会的弱者、ハッキング、ストーキング、いじめなど、現代社会の問題が描かれていて、そんな社会の中で生きていくことの難しさを再認識させられる。ピョンジェのお爺さんの存在も大きい。生きていくのに精いっぱいのこの社会だからこそ、互いに支え合っていくことが大切であると教えてくれる。

●目次

プロローグ
1 普通の家族
2 屋上のソナタ
3 大黒柱は辛い
4 ハインリッヒの法則
5 何者かに襲われる
6 大切なもの
7 襲撃
8 お前を見張っている
9 呼び出し
10 人間の本性
11 うわさ
12 昨日も猫、今日も猫
13 巡視
14 外食
15 見送り
16 ターゲット
17 攻撃を避ける方法
18 ぼくがそんなにイマイチ?
19 韓方薬
20 人生はそんなもの
21 一発
22 非常事態
23 ごめんね
エピローグ
作者の言葉

●日本でのアピールポイント

作者は言う。面白い小説を書きたくていつも非常に苦しんでいるのだが、100パーセント成功するという「インディアンの雨乞いの儀式」を執り行う気持ちで書いている。願いが叶うまで続けるから、いつかは絶対成功するというわけだ。そのように、私たちも挑戦し続けることが大切なのだ。失敗してもいい。その経験はきっとその人を成長させるし、次の機会にプラスになるはずだから。辛いことから逃げずに挑戦しながら成長しようという作者のメッセージが伝わってくる。2020年世宗図書文学部門選定図書。

2020年本屋大賞1位に輝いた『アーモンド』は韓国ではYAとして出版された。その後も『保健室のアン・ウニョン先生』『ペイント』『普通のノウル』等、韓国のYAが翻訳出版され、世代を問わず受け入れられている。イム・ジョンヨンは日本ではまだ知られていない作家であるが、むしろそれゆえに新鮮に感じられることだろう。

(作成:小山美年子)

イム・ジョンヨン
1967年全羅南道霊岩生まれ。大学では社会福祉学を専攻したが文学を志し、地道に努力を続けて2003年ソウル新聞新春文芸に短編小説「夜間飛行」が当選、作家デビューを果たした。アルコ創作基金、韓国文化芸術委員会創作基金等を受ける。小説集に『僕の付き出し人生』『アウト』『火事』、長編小説に『叫べ!』『ランランラン』『フェラリーランド』および本作『地獄万歳』と『ヒェス、ヘス』1・2がある。