『書籍修繕という仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』(ジェヨン/ 著 牧野美加/訳 原書房)

痛んだ本を修繕する書籍修繕家ジェヨンさんのエッセイ集『書籍修繕という仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』(ジェヨン/ 著 牧野美加/訳 原書房)が話題になっています。辞典や絵本、漫画などの書籍だけでなく、日記帳やアルバム、栞など、紙でできているあらゆるものを修繕してきたジェヨンさん。修繕の方針や過程、依頼人の思い出など、心あたたまるエピソードが綴られています。修繕の方針や過程からは、書籍が様々な工程を経てつくられていて、修繕をするための最善の選択をすることの難しさがよくわかります。依頼人の思い出からは、私自身の思い出もよみがえり、実家に置いてきた古い文学全集を思い出したりもしました。著者の仕事道具や書籍修繕家になるまでの道のりがコラムとして紹介されていたり、修繕に携わった本や日記帳の写真も掲載されていたり、様々に楽しめるエッセイ集です。訳者の牧野美加さんにメッセージをいただきましたので、ご紹介します。

この本の著者ジェヨンさんは、アメリカで書籍修繕の技術を身につけ、帰国後ソウルに作業室を構えて書籍や紙類の修繕をしています。アメリカでは3年半にわたって、大学図書館付属の研究室で蔵書の修繕をしていました。「破損」の形態を観察するのが好きだというジェヨンさんにとっては、さまざまな破損に日々触れられる環境はとても魅力的でした。けれど、自分に任された蔵書の修繕をただ機械的にこなしていたので、本自体に対する思い入れはほとんどなかったといいます。ところが帰国後、作業室をオープンし個人からの依頼を受けるようになると、書籍修繕に対する姿勢が一変します。依頼として持ち込まれる本には持ち主の記憶や思い出が刻まれていること、人生のように本にもそれぞれの「本生」があることに気づいたのです。本をじっくり観察し、そこに刻まれている記憶や思い出ごと大切に修繕するジェヨンさんの姿勢からは、「慈しむ」という言葉が自然と浮かんできます。この本を読みながらこちらまで温かい気持ちになるのは、本を慈しむジェヨンさんの思いが伝わってくるからでしょう。23件のエピソードはいずれも修繕前後の様子がわかるカラー写真つきで、それらによって書籍修繕という仕事がさらに身近に感じられるでしょう。また、愛用の道具やストレス解消法などについてのコラムも6本挿入されています。ぜひお手にとってご覧ください。(牧野美加)

『書籍修繕という仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』(ジェヨン/ 著 牧野美加/訳 原書房)