『​鹿川は糞に塗れて』(イ・チャンドン/著、中野宣子/ 訳、アストラハウス)

『ペパーミント・キャンディー』や『シークレット・サンシャイン』などで知られる韓国を代表する映画監督の一人、イ・チャンドンによる1992年作の小説集が初邦訳化。映像の世界に入る前に小説家としてデビューしていたイ・チャンドンの描く世界には、どの作品にも「生きる」ことを渇望し、その時代(韓国民主化抗争や各地再開発)の市井の人々の声がストレートに届くような世界観が描かれている作品です。

翻訳者の中野宣子さんから推薦のコメントをいただきました。

映画監督のイ・チャンドンが、1992年に発表し「映像の世界への転換点となった」と自ら振り返る小説集。五編の中・短編小説が収録されており、全体の表題は「鹿川は糞に塗れて」からとられている。「鹿が川で水を飲んでいる」という詩的な風景が「糞に塗れて」いるとする強烈な表題には、本作品集全体を貫くモチーフが端的に表現されている。
80年代から90年代初頭の時代状況を背景にして描かれ、朝鮮半島の南北分断、独裁政権下の暴力、その後の経済発展がもたらした諸問題に目を向け、その発展はゴミと労働者の排泄物を土台にした発展だと看破すると共に、普通の人々が懸命に生きる姿が描かれている胸を打つ作品。

中野宣子さんが先日来日したイ・チャンドンさんのイベントや作品について語っている「K-BOOKらじお」もぜひお聞きください。


『​鹿川(ノクチョン)は糞に塗(まみ)れて』(イ・チャンドン/著、中野宣子/ 訳、アストラハウス)