『天文学者は星を観ない』(シム・チェギョン/著 オ・ヨンア/訳 亜紀書房)

韓国で出版されるや多くの話題を呼び、瞬く間にベストセラーの仲間入りをした『天文学者は星を観ない』(シム・チェギョン/著 オ・ヨンア/訳 亜紀書房)。天文学者・惑星科学者として活躍するシム・チェギョンが文学トンネのウェブジン「週刊文学トンネ」で連載していたエッセイをまとめたものです。自分の研究から生まれた天文にまつわるエピソード、仕事と子育ての両立に対する悩み、女性だからという理由で受けなければならない理不尽さ、『星の王子さま』や『紙の月』など文学作品に登場する天文の話などがリズミカル、ユーモラスに語られます。西洋の星座の見方ではなく東洋の見方など、天文への知識も増え披露したくなります。ところで、タイトルがとても印象に残りますが、天文学者は何を観ているのでしょう? 宇宙への限りない愛情があふれ出ているエッセイ集です。訳者のオ・ヨンアさんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

本書は、2021年2月に刊行以来、多くの読者から選ばれベストセラーに名を連ねていますが、そんな中、最近改めて著者のシム・チェギョン博士に注目が集まっています。というのも、最近tvNのバラエティ番組<知っておいても役に立たない不思議な人間雑学辞典>にパネリストとしてレギュラー出演し、作家のキム・ヨンハやBTSのRMなどと、文学や哲学、物理や科学といったさまざまなテーマのもと「人間」について探求し、語り合う姿が視聴者の共感を呼んでいるからです。著書はもちろん、著者自身の落ち着いた語り口からもうかがえるのは、何よりもその安定した自己肯定感です。「今、幸せですか?」との問いに「幸せです」と即答し「その日に計画したことをすべてこなせたときは満足度が高いですし、誠実に一日一日をやりとげられたときに幸せを感じます。何か大きな目標や夢を描くタイプではありません」と答える姿からは、地に足の着いた研究者ライフが垣間見られます。上述の番組でも「自分を愛することとは、自分自身を把握することからはじまる。自分の短所、可能性、限界を知ること。その過程で心が折れたり、再び立ち上がる自分のこともすべて認めてあげること」と語るシム・チェギョン博士の言葉は、激しい競争時代を生きる韓国の読者に、鋭くもあたたかいエールを送り続けてくれています。(オ・ヨンア)

『天文学者は星を観ない』(シム・チェギョン/著 オ・ヨンア/訳 亜紀書房)