●本書の概略
「人生は笑いと涙が繰り返されるコメディのようだ。涙をこぼしたと思ったら、いつの間にかまたニコニコ笑っている」。本書は韓国JTBCのバラエティ番組『アヌンヒョンニム(知ってるお兄さん)』のレギュラーメンバーも務めるコメディアン、キム・ヨンチョルが50歳を前に自らの半生を振り返りながら綴ったエッセイである。明朗でポジティブが代名詞の著者だが、本書では早逝した兄や家族の病といった悲しみ、コメディアンとしての苦悩、実は心配性だったという過去を明かしてこれまでの人生を省察する。「笑いと涙のバランスが取れた時、人生は豊かになる。世の中は肯定エネルギーを強調するが、悲しみも生きる原動力になるのだ」。本書の出版にあたり「芸能人の日記ではなく一人の人間の人生観を見せたい」と語った著者の言葉どおり、紹介されるエピソードはとても身近で共感でき、特に同世代の読者は著者の経験に自分を重ねて見消化だった過去を一緒に消化していく感覚を味わえるだろう。家族を見舞ったいくつかの悲話には思わず目頭が熱くなるが、努力家が散りばめるポジティブなメッセージとユーモアで読後は心地よい清々しさが残る。
●目次
作家のことば
プロローグ 涙と笑いが繰り返されるコメディのような人生
1章 悲しみ 幸せには少しの涙がある
2章 冗談 僕たちには笑って暮らす楽しみがある
3章 夢 誰にでも得意なことがひとつくらいはある
4章 人 あなたがいて僕がいる
エピローグ 正面と後姿
人物索引
参考文献
●日本でのアピールポイント
近年日本では韓国のバラエティ番組のファンも多く、中でも『アヌンヒョンニム』は認知度の高い番組だ。そのレギュラーメンバーの単著ということで本書に興味を持つ人もいるだろう。番組にまつわるエピソードや放送では語られない共演者との裏話は韓国バラエティのファンには嬉しい内容だ。ただ、日本ではまだあまり知られていない芸能人の名前も多数登場するため、人物注を別途付け加える必要があるだろう。
本書に赤裸々に綴られた人間味あふれるエピソードは日本の読者にも共感できるもので、著者独特のユーモアにはクスっと笑えると同時に小さな勇気すら貰える。本書によると、以前は「もし〇〇だったらどうしよう」といつも先回りして心配ばかりしていた著者も、ある先輩の言動をきっかけに変わることができたのだそうだ。「そんなに英語を一生懸命勉強して、もし将来ハリウッドに進出できなかったら?」ともし今問われたら著者はこう答えると書いている。「その時は英語がとても上手になっているでしょう」。積み重ねた努力は結果として残る。「先の心配は捨てて今に集中すればいい」。著者のように迷わず進んでみたくなる。
(作成:高上由賀)