とりあえず、デモ-“デモに行く”(아무튼, 데모 – “데모하러 간다”)

原題
아무튼, 데모 - “데모하러 간다”
著者
チョン・ボラ
出版日
2024年3月25日
発行元
ウィゴ
ISBN
979119304413
ページ数
172P
定価
10,800ウォン
分野
エッセイ

●本書の概略

「趣味はデモです」
「呪いのウサギ」(原題)が2022年、英文学賞「ブッカー賞」の翻訳書部門「ブッカー国際賞」の最終候補に選ばれ注目を集めた作家チョン・ボラの初エッセイのテーマはデモ。
セウォル号追悼と沈没真相要求、性的マイノリティーの人権保障、非正規労働者不当解雇糾弾と復職要求、差別禁止法制制定のほか、犯罪容疑者を中国へ送ることを可能にした「逃亡犯条例」を巡る署名活動、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルのガザ地区侵攻停止要求。十年間にわたり数多くのデモや集会に積極的に参加し、スローガンを叫び、署名を集めてきた。本書ではデモを通して虐げられた人々の声に耳を傾け、ユートピアの実現に向けて活動する作家の思いがつづられている。さらにデモや集会での大音響から耳を守るために必需品の耳栓は「3Mのオレンジ色が最高」などデモに参加する際の必需品も紹介する。

●目次

用意する物
梨泰院
光化門
集会の人々1
地下鉄の駅
行進
五体投地
集会の人々2
黒いデモ
米国の労働者よ、団結せよ
空中座り込み
海外連帯
ユートピア

●日本へのアピールポイント

イスラエルのガザ地区侵攻を巡り、世界各地で反戦デモが繰り広げられている。イスラエルのガザ地区への攻撃に抗議する米国コロンビア大の学生が構内の建物を占拠し、警察が強制排除に乗り出したことが大きなニュースになった。韓国でも朴槿恵政権退陣のきっかけとなったのは一般の市民が光化門にロウソクを持って集まったロウソクデモだった。デモは市民が自らの意思を示す手段の一つして定着している一方、日本ではデモやデモの参加者に対して冷ややかな視線が向けられることが多く、デモ参加のハードルは高い。
本書では人気作家のチョン・ボラさんがデモに参加するようになったのは、大学で教えていたとき、学生に少しでも安全で平等な未来を残したいと思ったからだという。何よりユートピアを実現するためだ。自分が生きている間にユートピアが実現しなくても、より良い未来のためにデモに参加するのだという。そして水やレジャーシート、耳栓を持って散歩に出かけるようにデモに参加する姿は、デモが日常とつながっていることを教えてくれる。「世の中はだんだん悪くなっているようだ。『昨日が一番いい日だった』と思う時代が来たようだ」と言うチョン・ボラさんは「だから私はデモをする」。
デモに参加してすぐに何かが変わるわけではない。それでもデモに参加して声をあげれば、誰かの耳に届き、その人が次の一歩を踏み出してくれるかもしれない。デモに参加してみようと背中を押してくれる一冊だ。

(作成:砂上麻子)

チョン・ボラ
1976年、韓国・ソウル市生まれ。イェール大学でロシア及び東ヨーロッパ地域研究の大学院研修を修了後、インディアナ大学でスラブ文学の博士号を取得。1998年、短編小説「頭」(原題)で延世文学賞を受賞し作家としてデビュー。2011年、小説「号」(同)で第3回大韓民国デジタル作家賞モバイル部門優秀賞、2014年、「種」(同)で第1回SFアワード短編部門本賞を受賞。2022年、短編集「呪いのウサギ」(同)が英文学賞「ブッカー賞」の翻訳書部門「ブッカー国際賞」の最終候補に選ばれ、世界的に注目を集める。2023年9月には全米図書翻訳文学書の候補になった。日本で翻訳出版が待たれる韓国人作家の一人。