●本書の概略
文系の人文学者、理系の科学者、それぞれの専門家は互いの分野にあまり関心を持たず、あえてかかわろうとしない傾向がある。歴史・政治・経済・旅行など人文学分野の文章を長年書いてきた文系の著者は、科学の本を読んだことで、人文学の勉強では学ぶことのなかった新たな知識や情報を得ることができただけなく、科学の基礎の上で人文学の思考の世界が大きく広がった。そして、自分の専門分野である人文学をさらに深めていくためには、もっと若い時から科学の勉強もしておくべきだったと反省するに至った。さらに、人文学がぶつかる壁や危機を乗り越えてさらに発展していくために、今こそ、科学の知識を自分の中に取り入れていくべきだと痛感する。科学の本を読んだことで、還暦を過ぎてから広がった文系男子の著者自らの思考の世界を語る本書は、新たな思考のためのヒントを多くの読者に提供してくれる。人文学と科学は対抗し合うものではなく、人文学は科学の知識によってより正確になり、科学は人文学の思考によってより深くなれるすばらしい関係なのだ。
●目次
はじめに 科学を勉強する楽しみ
1章 もっともらしい話と確かな真理(人文学と科学)
2章 自分とは何か(脳科学)
3章 私たちはなぜ存在するのか(生物学)
4章 単純なことで複雑なことを説明できるのか(化学)
5章 私たちはどこから来てどこへ行くのか(物理学)
6章 宇宙の言葉なのか、天才の遊びなのか(数学)
あとがき 馬鹿になりそこなった者の無謀な挑戦
索引
●日本でのアピールポイント
学問分野を分ける文系、理系という考え方は韓国でも日本でも広く浸透している。人文学者と科学者は自分の専門分野を深掘りすることには熱心だが、相手の分野のことはあえて知ろうとせず、知る必要もないという思考に固執してしまうこともある。そんな「文系男子」の典型だった著者が、科学の本を読んだことがきっかけで大きく広がった思考の世界を、素直な気持ちで語っているところがとても興味深い。本書で紹介されている科学の本の多くは日本語版を入手でき、一般教養として科学の知識を得られるものがほとんどだ。文系の人が、自分には理解できないだろうと無意識のうちに避けてきた科学の本にもあえて目を向けてみることで、著者と同様にものの見方や思考方法が大きく変わるきっかけになるだろう。
(作成:伊賀山 直樹)