●本書の概略
ソウルのコンビニで10年以上働いてきた著者が、コンビニで出会った人々とのエピソードや仕事の喜怒哀楽をユーモラスな筆致でつづったエッセイ集。
「商品を売っていたら、やさしさが返ってきました」
子どもが幼稚園に入園したタイミングでコンビニ店員になった著者。目を合わせることなくお金と商品をやり取りするだけだった相手に一歩近づいてみたら、彼らはやさしい人たちだった。翻って、自分は彼らに対してどれだけいい人間だっただろうか?
本書にはコンビニを舞台とした56の短いエピソードが収録されている。初めて来たのに「いつもの」の一言でタバコを注文するおじさん、だんだん韓国語が上達していく外国人の親子、人気の菓子パンをめぐってバトルを繰り広げるお客さんなど、毎日あらゆる人がやってくる。著者は彼らの言葉に親身に耳を傾けつつも、言うべきことはしっかり言い、店の売り上げに貢献することも忘れない。
本書に登場する人々は著者をくすりと笑わせ、時には手を取り合って一緒に涙を流す。著者は彼らとのふれあいを通し、一生懸命に生きてみようと思うのだった。
●日本でのアピールポイント
「韓国のコンビニもの」といえば、小説『不便なコンビニ』のヒットが記憶に新しい。両者に共通しているのは、コンビニが昔ながらの商店のような人情味のある場所として描かれていることだ。本書の著者は、相手から与えられるやさしさを「オマケ」と考えているが、実は自分から先に、おつりが来るほどのやさしさを差し出す人物だ。
本書には、著者と一緒に笑ったり怒ったりするような話もあれば、ドラマや映画のようなエピソードも収録されている。そうしたエピソードを読んでいると、やさしさのおすそ分けをもらったような気分になる。
日本と同じように、韓国でもコンビニの業務はとても範囲が広く、だからといって待遇が特にいいわけではない。しかし、「つい『ありがとうございました』と口から出てしまうのが職業病だというのなら、コンビニのバイトはすごくいい仕事なんじゃないか(と時々思う)」という彼女の前向きでユーモラスな文章は、読者を励ましてくれるだろう。
(作成:高松彩乃)