ヨルムとルビー(여름과 루비)

原題
여름과 루비
著者
パク・ヨンジュン
出版日
2022年7月15日
発行元
ウネンナム
ISBN
9791167371898
ページ数
264ページ
定価
14,500ウォン
分野
小説

●本書の概略

『ヨルムとルビー』は、韓国語で夏を意味する名前の主人公ヨルムが、ある夏ルビーに出会って得た愛とそれを失ったことによる成熟していく物語。

語り手の「私」である主人公のヨルム(韓国語で夏の意味)は、叔母家族の家で育つ。ピアノ教室を営む叔母に厳しいルールの中で育てられたヨルムは、「小さな会社員」のように人の視線や空気を読むのが得意な子供になった。小学校入学を控える中、定職につかずに連れ歩く女性も頻繁に変わるヨルムの父が「新しいお母さん」を連れてきて、3人で暮らすことになる。そんな中突然「私」の世界に入り込んで来て、初めて出来た友達がルビーだった。周りの目を気にしないルビーの言葉はヨルムに自由を与えたが、小柄で分厚い眼鏡を掛け、見栄の為に平気で嘘を吐くルビーは常に子供たちの嘲笑の的だった為、ヨルムはいつも周囲の目を避けてルビーと遊んだ。時が経ち、13歳で月経が来る。ルビーとの交流は続いていたが、ある日のマルグリッド・デュラスの小説『愛人』を巡る事件以降、ルビーとは口を聞かなくなってしまう。更にルビーの母が若い男をつくって家を出たことで、叔母のピアノ教室は閉鎖に追い込まれ、ルビーも私の前から永遠に消えてしまう。

●目次

1部
2部
解説
作家の言葉

●日本でのアピールポイント

一つ一つのチャプターがとても短く、それが幾つも重なる形で少しずつ物語が進んでいく。小説でありながら散文詩でもあり、詩でありながら紛れもなく小説である。詩人である著者初の長編小説である本作は両者のいいとこ取りをした作品と言え、韓国ほど詩が大衆文化として浸透していない日本の読者にとっては非常に新鮮な文学体験になるだろう。

ルビー、初潮、鼻血、救急車のサイレン、といった赤く初めての経験をもたらすもの、「母」の不在、大人から与えられるべき愛情の欠乏とそれへの欲望。こうしたイメージを詩的な技法で反復しながら、本書では幼年期という季節に経験した出会いと別れが大人になった「私」の視点で語られる。

幼年期というのは誰にでもある。幼い頃を振り返る際、大人になった今考えてみれば他に選択肢はいくらでもあった気がするのに、幼い自分には確実にそれ以外の選択肢はなかった、と感じる人も多いのではないか。しかしその問いに答えを出せる人は誰もおらず、私たちは肯定と後悔の間に放置されるような気分になる。歳を重ねるほど私たちは幼年期を簡単な言葉で修飾するようになるが、その幼年という季節がいかに複雑な出会いと別れに満ちていて、現在の自分に影響を与え続けているかを痛感させる作品である。子供の視線で捉えられた女性性や性描写、抑圧、(自)死、生理などの描写がありつつも、淡々と語られる本作は、本国と同じくとりわけ20-50代女性からの支持を受けるだろう。

(作成:武田香乃)

パク・ヨンジュン
1980年ソウル生まれ。同徳女子大学文芸創作科を卒業。2004年に詩、「氷をください」が中央新人文学賞を受賞し活動を始める。2017年には、今日の若い芸術家賞文学部門を受賞。現在までに詩集4冊、散文集7冊が出版された他、子供向け絵本の文章も担当している。