麻姑(마고)

原題
마고
著者
ハン・ジョンヒョン
出版日
2022年6月25日
発行元
現代文学
ISBN
9791167901125
ページ数
215ページ
定価
13,000ウォン
分野
小説

●本書の概略

統治の主体が変わっても、女性の権利や尊厳は踏みにじられたままだった。分断と対立が深まる米軍政期のソウルで、ある事件に関わる真相が明らかにされていく。浮かびあがるのは、ただ自分らしく生きることを願った人たちの優しく切ない愛の物語だ。

左翼運動家の娘であるカソンは、社会の動きに神経を尖らせながら警察で検死医として働き、密かに探偵活動も行っていた。手伝うのは共に育った新聞記者のウンソだ。複雑な生い立ちのせいで表情を失ったカソンと、ずっと女性になりたくて女装をして生きるウンソは、互いを誰よりも理解し魅かれあいながら、重荷になるのを恐れて切ない関係を続けていた。
ある日、親米派として知られる大学教授が米軍の一員に殺される。人心を失いたくない米軍と警察は、事件当日ホテルで教授と揉めていた三人の女性を容疑者に仕立てる。調査に乗り出したカソンとウンソは、その場に居合わせたホテルのオーナー、エリカから話を聴き、三人が教授に深い恨みを抱いていたことを知る。中でも新人小説家で教授の弟子であるチョイは、自分の小説を盗まれて発表された上に、助けを求めた人にも見放されたと思い込み、絶望して自殺していた。教授の卑劣で狡猾な手口と悲劇の真相を知ったカソンは、彼女に思いを寄せる米軍調査官イーデンに協力を求めて教授の検死を行い、三人の容疑を晴らす。一方ウンソはエリカがチョイの恋人だと気づき、エリカと対峙していた。インターセックスに生まれて見世物にされていたエリカはチョイの母親に助けられ、手術を受けて男性となるが、その後は素性を隠して活動し、謎の女性実業家として北のスパイとも噂されていた。そんなエリカが、まもなく南北が衝突して半島は大混乱に陥ると告げる。そのとき危険にさらされるのは社会的弱者とカソンやウンソのような人だと。慌てたウンソはカソンを無理やり納得させ、自分の身分証を渡してイーデンと共に渡米させる。それが愛する人を守る唯一の道と信じて。
三年後のある日、カソンは新聞にウンソの顔を見つける。それはカソンの名前で取材中のウンソが平壌で失踪したと報じる記事だった。渡米後、祖国の惨状を知ってもどうすることもできずに悶々としていたカソンは、直ちに帰国し、平壌へ向かう。そして今度こそ二人だけの時間を生きると誓いながら、砲弾の降り注ぐ街に足を踏み出していった。

●目次

プロローグ 昼の月が昇る時間
1章~8章
エピローグ 光を超え、時間を巻き戻して
作品解説
作家のことば

●日本でのアピールポイント

もとは天地創造の女神だった麻姑(マゴ)がいつしか魔鬼(マグィ)に変えられたように、男性支配の歴史には不要とされ、消されてしまった人々がいる。クィアを研究するアーキビストでもある著者はその記録を見つけ出し、光を当てて、歴史のもう一つの真実を照らし出す。幼い頃からマイノリティの人たちと多くの時間を過ごし、それがむしろ心地よかったと言う。それだけに彼らを描く著者のまなざしは優しく自由で、その魅力的な人物描写は若い読者の圧倒的な支持を得ている。また物語の展開に合わせて当時の流行や事件が随所に盛り込まれており、朝鮮戦争直前の空気感を感じ取る機会にもなるだろう。
本書と同じく推理小説仕立てで埋もれた歴史に光を当てた作品として、加藤シゲアキの新刊『なれのはて』がある。悲惨な戦争が続くいま、両作品に描かれた空襲のシーンはそれぞれ胸に迫るものがある。ハン・ジョンヒョンの著書には日本に関連する作品も多く、邦訳が待たれる。

(作成:大窪千登勢)

ハン・ジョンヒョン
1985年生まれ。2015年、東亜日報の新春文芸に選ばれて作家活動を始める。短編集『少女芸能人イ・ボナ』、長編小説『ジュリアナ東京』『私をマリリン・モンローだとしよう』、エッセイ『乗り換え人間』などがある。今日の作家賞、若い作家賞、クィア文学賞他を受賞。 ページ数:215ページ 定価:13,000ウォン 分野:小説