●本書の概略
「人生の軌道を広げてくれる文、孤独、連結の記録」
旅行エッセイで同年代女性の強い共感と支持を得てきた著者が30代になり、これまで自分に影響を与えてきた学びについて独自の感性で綴ったエッセイ集。
タイトルにある“友情”は人と人との絆を越えた、より広い世界とのつながりを意味する。そして自分の中に既にあるものを育てるのではなく、欠乏しているものを“友情”で満たすことを“泥棒”と表現している。著者は“私”というフェンスを飛び越え、周囲の世界に関心を向けてつながることで見えなかったものが見えるようになり、そこに幸せがあると気づく。本書はそんなつながることの大切さや共存の意味を悟っていくプロセスを記録している。テーマは孤独、時間、恋人や友人との関係、読書、ファッション……と多様だ。
世界とつながるためにはまず自分の内面と真摯に向き合うこと。そのために子どもの頃の不始末、初めて本を出した時のトラウマになるほどの苦い経験や思いを驚くほど赤裸々に告白している。さらに旅先で出会った人たちの人生に共感し、そこから吸収することで最も価値があることは何かを確信していく。
●目次
1.孤独と散歩 2.会話と夜明け 3.君になる夢
●日本でのアピールポイント
日韓で多くの読者の心をひきつけているジャンルにヒーリングエッセイがある。既に邦訳も多く、長くてわかりやすくてタイトルと“ゆるかわ”なイラストで、競争社会や人間関係に疲れた読者を癒してくれる作品が人気だ。これに対して本書は短くて意味深なタイトル、シンプルすぎる装丁に加えイラストは一切なし、時にあまりに率直、時に少々難解な章もありと、癒し系とは一線を画すスタイリッシュで読み応えのあるKエッセイだ。優しい言葉をかけてはくれないが、書くこと、考えることを愛する著者の思考をたどりながら、読者は自分ももっと素敵な私になれると思える。さらに、映画「ウンギョ」に登場する詩からパク・ワンソ、『サラダ記念日』、太宰、ニーチェまで、古今東西の文芸作品や作家、哲学者の一節などがふんだんに散りばめられており、気になったものを辿っていく楽しみ方もできるだろう。ネットサーフィンではなく、本から本へつなげていくことで自分の世界を“蜘蛛の巣のように”広げるためのコアな一冊としてもおすすめできる。
(作成:湯原由美)