●本書の概略
医師として健康のために自然植物食を提唱し自らも実践している著者が、ドイツ・フランクフルトで出会った「気候美食週間」。「気候」と「美食」の組み合わせに感動し、これを韓国に紹介すべく「世界はもう気候美食の時代」というコラムを書き始めると、全国各地の様々な環境団体から講演依頼が相次いだ。本書は、医学的な観点から植物食を提案した前著『少しずつゆっくり自然植物食』をベースに、新たに自然植物食によって得られる食糧危機と気候危機への対応効果を付け加え、一冊にまとめたものだ。
本書は4部から成る。まず第1部では、今地球で起こっている環境問題と食糧危機を解説、第2部で食によってそれらの問題を解決できることを説く。類書と異なる点として、本書は炭素の排出を減らすだけではなく炭素の吸収力を上げることの重要性と、それが植物食への転換で実現可能だということを解説している点があげられる。特に海中の食物連鎖による炭素の吸収を紹介し、海の動物も食べるべきではないと主張している。それらをふまえて、第3部で新しい時代に合わせた「新しい栄養学」の必要性を説き、第4部では、世界の取り組み、特に環境意識の高いヨーロッパの例を挙げながら、韓国で実践できる気候美食メニューを示して読者が自然植物食を今すぐ始められるよう導く内容となっている。
●目次
プロローグ 今日の一食が私たちの未来を変える
第1部 生存を脅かす未来がやってくる
第2部 食べ物で地球を救う
第3部 人類の滅亡に抗う栄養学
第4部 気候美食~みんなのための持続可能なレシピ~
エピローグ 悪役から気候美食の先導国へ
付録 旬の食べ物ガイド
自然植物食の栄養素別含有量
気候美食家へおすすめの本
参考資料
●日本でのアピールポイント
ここ数年、日本ではビーガンや菜食主義を扱った書籍が多数出版されているが、「気候」と「食」を一冊で読める本となるとその多くは児童書で、一般向けの書籍は少ない。気候危機対策が喫緊の課題であることを考えると、児童書や専門書以外にも本書のような一般の大人に向けた本の出版も望まれる。
本書の中で著者は、「乳製品を食べる伝統があるヨーロッパに比べ、米や穀物を主食に野菜中心のおかずが並ぶ韓国の伝統食の献立は、気候美食を実践する潜在能力がある」と述べており、同じく米を主食に野菜中心の総菜が並ぶ献立を伝統食とする日本人の食生活に当てはめて考えやすいことも、この本を日本に紹介したい理由の一つだ。巻末に収録されている栄養成分表や旬の食材一覧表の収穫時期等は全て韓国のデータだが、日本と地理的に近く気象条件も似ているため参考にできる。
気候危機という地球規模の問題について考えるとき、隣国で論じられている主張や取り組みを知ることは大変有用だ。しかも本書はそれが「今日のごはん」という実に個人的な行動で解決できるとしている。健康意識の高い韓国の現職医師が提案する、人も地球も健康になるポジティブな気候危機対応策を是非多くの人に読んでもらいたい。
(作成 高上由賀)