明日の恋人たち(내일의 연인들)

原題
내일의 연인들
著者
チョン・ヨンス
出版日
2020年10月20日
発行元
文学トンネ
ISBN
9788954675376
ページ数
236ページ
定価
13,500ウォン
分野
小説

●本書の目次と概略

私たち
かつて編集者だった「僕」の前に現れたジョンウンとヒョンス。彼らは自分たちの恋愛を小説にして出版したいと申し出た。「僕」には彼らが理想的な大人のカップルに見えた。仕事を引き受けた「僕」は、奇妙な連帯感を感じながら、彼らと定期的に会うことにする。「僕」もまた、かつての恋人ヨンギョンとの日々を小説として書き始めていた。そんなある日、ジョンウンとヒョンスが互いに別の家庭を持っていることが明らかになり、三人の関係は終わりに近づいていく。

明日の恋人たち
「僕」は、母の友人の娘で昔なじみのソネ姉さんから、ヴィラの管理を頼まれる。そこは、ソネ姉さんがかつて離婚した夫と暮らしていた家だった。互いに心に傷を負った「僕」とその恋人ジウォンは、その家で過ごしながら、互いに救いを求めるように愛を深めていく。献身的だった恋人との別れ、結婚、夫との破局ーソネ姉さんの愛の物語をたどるうちに、「僕」とジウォンの感情にも変化が訪れる。

より人間的な言葉
妻へウォンとの果てしない言葉の応酬に疲れ、離婚を考えている「僕」に、突然弁護士から連絡が来た。還暦を過ぎた独身の叔母に遺産贈与の意思があるという。妻と一緒に会いに行った「僕」は、叔母が単身スイスに渡り、安楽死で人生を終わらせようとしていることを知る。

何事もなく穏やかな現代の暮らし
自転車で15分ほどの職場で公務員として働く「僕」は、絵本の挿絵作家のソニョンとの結婚を控えている。平凡ながらも幸福な日常を過ごす「僕」には、起こってはいけない「不幸」を想像する癖があった。ある日、出産後100日の祝いに高校の同級生ユジョンの家を訪れた「僕」は、抱き上げた赤ん坊を頭から床に落としてしまう。

奇跡の時代
30代の「僕」は妻のウンジュと互いの恋愛経験のほとんどを共有して来たが、高校時代に知り合ったヨニとの思い出だけは話をすることができずにいた。ヨニとの共通の友人で、付き合いの続いている友人ソンジュンとガールフレンドのヨンソン、ヨンソンの姉ヨニ。四人で過ごした日々は、なぜ「僕」にとって特別なのだろうか。

互いの国で
20歳を少し過ぎた頃、「僕」が偶然に出会い、自然に連絡が途絶えた女性アヒョン。それ以降の、「僕」は時々彼女のSNSを検索していた。それから十数年、「僕」は退職をきっかけに、彼女がボランティアをしているパレスチナに向かう。久しぶりに再会したアヒョンとの間には、異なった環境で過ごした歳月が生み出した違和感だけが横たわっていた。

道に迷わないソウルの人々
病気見舞のため、妻スジンの運転でソウル市内の病院に向かう「僕」。妻は目的地直前に道を間違えて漢江にかかる橋を渡ってしまう。取り返しのつかない時間の浪費に苛立つ「僕」は、感情の行き違いを繰り返している妻との関係を思い返していた。

二人の世界
1970年代、工場で働く平凡な女性ヨンソンと工具店で働く天涯孤独のナミョンが偶然出会い、言葉を交わし、恋に落ちる。ふとしたきっかけでヨンソンに暴力を振るうようになったナミョン。すぐにヨンソンに謝罪し、繰り返さないことを誓ったのに、次第に暴力が日常になる。家族にも相談し、別れを決意するヨンソンだったが、望まぬ妊娠に気づき……。彼女の選択は今の不幸につながっていき、選択があったからこそ存在する息子の「僕」が、ヨンソンとナミョン、二人の世界を終わらせるためにある決断をする。

解説 夜の恋人たちのための人生読本三部作 シン・ヒョンチョル(文芸評論家)

作家のことば

●日本でのアピールポイント

本書には2018年、2019年の「若い作家賞」を受賞した2編を含む8編の短編が収録されている。「若い作家賞」は若手作家の発掘を目的に2010年に創設された登壇10年以内の作家の短編を対象とした文学賞で、若手文学評論家が予備選考を行い、その中から7編が受賞作に、うち1編が大賞に選ばれる。2年連続の受賞は、チョン・ヨンスが次世代を担う作家として期待されている証拠だ。
本書にはさまざまな恋人たちが登場するが、必ずしも恋愛の成就がゴールではない。現代韓国の恋人たちのリアルな生活を背景に、作者特有の繊細な心理描写で表現された、過去の恋愛、現在の恋愛、そして未来の恋愛は、移ろいやすい人間の心、時の流れの残酷さ、不思議な優しさを感じさせる。繊細な感性を巧みに描く男性作家として、チョン・ヨンス作家の今後の活躍を注目したい。

(作成:中村晶子)

チョン・ヨンス
1983年生まれ。2014年短編小説「レバノンの夜」でチャンビ新人小説賞を受賞しデビュー。『愛好家たち』(2017)は、デビュー作を含む8編が収録された小説集。他に離別をテーマにしたアンソロジー『手を振る小説』(2022)に参加。本書に収録された「より人間的な言葉」は2018年第9回若い作家賞を受賞し、「私たち」は2019年第10回若い作家賞に連続して選ばれている。