●本書の概略
うさぎのボールを拾ってくれるのは誰でしょうか?
高台にある公園でボール遊びをしていたうさぎの少年が、うっかりボールを下へ飛ばしてしまいました。1分で行ける距離なのに取りにいくのが面倒なうさぎは「だれかボールひろってください!」と、下を通りかかる動物たちに声を掛けます。かめのおじいさんは耳が遠くて全然話になりませんでした。その後、ひよこの女の子、ライオンのおじさん、キリンのおばさん、サイ、カバ、ワニ―――いろいろな動物が通りかかってボールを蹴り返してくれようとしますがなかなかうまくいきません。どいつもこいつも役に立たない、と結局自分でボールを拾いにいく羽目になったうさぎ。ところが、階段を下りていくと、どんなに探してもボールが見当たりません。ボールがなくなったと思ってしょんぼりしていると、いきなり目の前にボールがころがってきました。実は、高台にある公園まで5時間かけてたどりついたかめのおじいさんが上からボールを投げてくれたおかげでした。そんなことは知らないうさぎはボールを発見し大喜びで家へ帰っていきます。あたりはすっかり夜になっていました。
一方、かめのおじいさんは帽子を落としてきたことに気付き、その後また5時間かけて自力で帽子を階段下まで取りに来ました。誰の助けも借りませんでしたが、夜明けまでには無事に帽子を取り戻しました。
誰もが知っているイソップ童話『うさぎとかめ』のパロディーで、まるっきり新しい、うさぎとかめの物語です。
●日本でのアピールポイント
楽しい色遣い、予想外のストーリー展開は、五味太郎さんの絵本を思わせます。また、ことばの配置やデザインもユニークで、『ライオンのこころ』(レイチェル・ブライト文、ジム・フィールド絵、安藤サクラ訳)のようにいきいきとしていて印象に残ります。
動物たちのやりとりはわかりやすく、ユーモアにあふれているので、親子で楽しく読みすすめられます。笑いとともに、気付きと感動を与えてくれる美しい物語に、大人もハッとさせられるでしょう。
(作成:山口さやか)