●本書の概略
韓国のカリスマ溢れる巨匠11人の内面に深く切り込んだインタビュー集。問答に対して、著者の思索部分の比重が高いのが特徴。単なる問答集ではなく、ゲストのこれまでの人生と、それを語る今の姿をトピックに、好奇心あふれる著者の思考錯誤を記録した「読み物」だ。
聞き手である著者は、ゲストのことばを大切に受け取りながら、言外の情報にも注目。インタビュー当日の服装、口癖やしぐさ、握手した手の温度。さらに現場に聞こえる音やにおい、景色の色あいまで瞬間、瞬間を詳細に描写し、ゲストのことばと調和させ、咀嚼しながら考えを深める。時にゲストは動物やキャラクター、彦摩呂さん顔負けの気の利いた例えで形容される。写真はモノクロ一枚きりだが、その人物像は実にカラフルで立体的に読者の前に浮かび上がってくる。
ゲストは歌手、プロ野球選手、僧侶、コメディアン、医師、元外交部長官、ファッションデザイナー、ピアニスト、作家、フィギュアスケート選手、舞台俳優。
華麗な活躍で成功を収めてきた彼らのプライドと平凡で弱い部分を、独特のインタビュー形式で武装解除させ、語らせてしまう。それでゲストの口から出たこの言葉がタイトルとなった。
●目次
プロローグ 明らかに私的な観点
今の歌 チェ・ベクホ
マウンドのマイティ・ソー カン・ベクホ
違いの平等 ポムリュン
心の中のおもちゃ工場 カン・ユミ
波の中の永遠 チョン・ヒョンチェ
最初の名前 カン・ギョンファ
白磁の心 ジン・テオク
キャンパスのホロビッツ キム・デジン
少年の心臓 チャン・ソクジュ
氷の華 チャ・ジュンファン
死のワルツ パク・ジョンジャ
●日本でのアピールポイント
ゲストの中でもシルバーのボブヘアが印象的な元女性長官は、在官当時よくニュースに登場し、シャープで威厳ある姿は日本でもよく知られている。本書では非常に私的なことも赤裸々に語っており、その意外性とインタビュアーの力に驚く。他のゲストについては日本での認知度を期待するのは難しいかもしれないが、多様なジャンルを象徴する人物が続々登場することから、韓国社会への視野を広げたい人にお勧めできる。また、純粋に人生哲学論、評伝としても興味深く読める。
日本で雑誌のインタビュー連載から生まれた書籍といえば『阿川佐和子のこの人に会いたい』シリーズ(文藝春秋)の人気が高い。人への好奇心は普遍的なものだろう。阿川氏は「事前に用意する質問は3つまで」と述べており、聞き手の力量で人物像を掘り下げていく共通点がある。
最後に本著にはゲストのプロフィール欄がないことから、邦訳に際しては丁寧な訳注が必要になるだろうと申し添えたい。
(作成:湯原由美)