●本書の概略
家賃の代わりにまとまった保証金を大家に預けて、退去時に返してもらう韓国特有の賃貸制度、「チョンセ」。その保証金が返還されない「チョンセ詐欺」が韓国で大きな問題になっている。
本書は、チョンセ詐欺にあった著者が公売にかけられた自宅を落札し、保証金を取り戻すまでの血と涙の3年間を記した実録マンガだ。累計閲覧数462万ビューを突破したウェブマンガの単行本化。不動産問題に関心が高い若い世代から共感と支持を集め、韓国でドラマ化が決定している。
●あらすじ
著者は3年間暮らしていた賃貸住宅の補修工事の為、退去を要請される。しかし、それは賃貸住宅を売却する為、大家と不動産業者が結託してチョンセでの入居者である著者を追い出したのだった。
なんとか保証金を返還してもらい新居に引越ししたものの、1週間ほどで今度は新居の賃貸住宅が競売にかけられてしまう。なんと引越し先の大家は、自身が滞納した税金をチョンセで賄おうという、とんでもない詐欺師だった。保証金が返還されなくなるのでは、という不安と心配を抱える著者。2回目の競売で新居の賃貸住宅は落札されたものの、大家が供託金を払って競売を中断させてしまう事態に。
1年が経過しても解決の糸口は見えず、著者は心身ともに疲弊しきってしまう。更に1年が経った頃、大家の税金滞納により建物はいよいよ公売にかけられることに。
自分の運命が他人に握られ、裁判所からの通知を待つしかない年月に嫌気が差す著者。埒があかない現状を打破すべく、一念発起し自宅の賃貸住宅を落札することを決意。そして公売にて無事落札を果たし、保証金も戻り、著者の3年間に渡る戦いはついに幕を閉じたのだった。
●目次
プロローグ 今になって、ようやくできる話
エピローグ チョンセ逆転、その後の話
監修及び推薦 保証金を守るための必読書 チョン・ミンギョン
●日本でのアピールポイント
日本ではあまり馴染みのない「チョンセ詐欺」だが、韓国では以前から後を絶たず、被害者は昨年1万人を越えた。本書はそんなチョンセ詐欺について、自身の被害体験を包み隠さず伝え、親しみやすい絵と文章で解決策を説く著者渾身の一冊だ。
煩雑で思うように進まない裁判の過程で、チョンセ詐欺の被害者は無力で行方を見守るしかないという。そんな状況の中、苦しみながらも決して泣き寝入りでは終わらせない著者の姿が非常に力強い。自らが専門知識を身につけ、行動を起こして事態を解決させようと立ち向かう著者の知力、体力、精神力には素直に拍手を送りたい。
また、本書中に悪人の仮面をつけて描かれる、チョンセ詐欺の大家の外見が終盤で明かされる。意外にも見た目は非常に感じが良く、人の良さそうな初老女性だったというエピソードも付け加えておこう。
いま困難な状況を抱えた人にも、そうでない人にもおススメしたい一冊。あらゆる問題を乗り越えるヒントと勇気が詰まった本書は、多くの人の心に響くだろう。読み終えた後、清々しい気持ちになると同時に、エネルギーがみなぎる作品だ。
(作成:朴純実)