●本書の概略
作者は、関心を持たなければ見過ごしてしまうような小さな生き物に関心を持ったと述べており、物語に挿入されている歌にも絵にもたくさんの植物や生き物が登場する。木の葉の家と登場する生き物たちから自然の恵み、互いに助け合う優しさが伝わってくる。
ある秋の日、森の中で大きな木の葉が落ちてきたところからお話は始まる。木の葉は、乾くにしたがって丸まりながらドームのようになり、そこに最初にやって来た黄金虫はすぐにこの「おうち」が気に入る。そして次々と助けを必要とする生き物たちがやって来る。毎回家に入れるのを躊躇するような生き物なのだが、結局迎え入れてみんなで楽しく冬を過ごすことになる。春が森に訪れ、風が吹いて木の葉の家はひっくり返り、これを機にそれぞれ散っていく。その後、残された木の葉に雨水がいっぱいに溜まる。日照りの中、水を求めた黄金虫が再び大きな木の葉をみつけ、仲間たちを呼び寄せる。今も森のどこかに水をたたえた大きな木の葉がある。
●日本でのアピールポイント
全ページに渡ってカラフルで優しい色調の絵本である。鉛筆で精密に描かれた絵には、様々な愛らしい生き物が見え隠れする。本書が幼児対象であるわりには文字が小さいのだが、大人が読んであげることを想定して作られたのではないかと思う。物語を読んでもらいながら、虫や鳥を探すのも楽しい読み方だ。また、ところどころで繰り返されるセリフや、擬態語も楽しく、耳も楽しませてくれる。韓国の読者レビューでは美しい絵の他に、物語を通して「自然の恵み」「分かち合い」「助け合い」を感じられる点を評価したものが多かったが、文中に出てくる「いっしょにお話をして手をたたくだけでも温かくなりました。」という箇所が表すように、異なった者同士でも共にいて温かくなれる、というメッセージが特に心に響く。これから世の中でたくさんの人と出会おうという幼い人たちが、コロナ禍に見舞われ、リアルに多くの人と接することが長く制限されている。こういう時期だからこそ、誰かといると温かいのだと大人も一緒に思い出す1冊になるだろう。
本書は2021年の「主要日刊紙ブックセクション推薦図書」(京郷、東亜、毎日経済、朝鮮、ハンギョレ、韓国経済などの主要日刊紙で多く紹介された図書目録)に選ばれている。
(作成:寄田晴代)