『ユ・ウォン』(ペク・オニュ/著、吉原育子/訳、祥伝社)

災害や事故などで九死に一生を得た人が、自分が生き残ったことに対して抱く罪悪感、「サイバーズ・ギルト」。『ユ・ウォン』(ペク・オニュ/著、吉原育子/訳、祥伝社)は、12年前の事故のトラウマから抜け出せないまま、多感な青春時代を送る高校生ユ・ウォンを主人公に、サイバーズ・ギルトをメインテーマに据えた成長小説です。『アーモンド』を生んだ「チャンビ青少年文学賞」受賞作品。訳者の吉原育子さんからメッセージをいただきましたので、ご紹介します。

さまざまな事件や事故、災害のニュースに触れるとき、私たちは、救助された人々は当然感謝しているはずだ、と単純に思い込んでいないだろうか。そんな立場に立たされた人々がどれだけ重いものを背負わされているのか、知らずにいるからかもしれない。
高校2年生のユ・ウォンは、12年前の火災事故の生存者。自分を助けて犠牲になった姉と、自分のせいで障害を負ったおじさんに、負い目と苛立ちを感じながら生きている。周囲から寄せられる同情は逆に彼女を追い詰め、真の友人をつくれずに、誰に対してもどことなく距離を置いている。
そんなユ・ウォンは心許せる相手と出会う。かけがえのない、理解者と呼べるような、高校の女友だち。でも二人には大人びた感情を共有せざるを得ない、ある理由が介在している。
サバイバーズ・ギルト、と呼ばれる生存者が抱く罪悪感によって、もし誰かの分の人生まで無意識に背負っているとしたら。それは一人で負うにはあまりにも重すぎる。ほんとうは背負わなくてもいいもの。ユ・ウォンは大切な友だちから受け取った勇気を振り絞って、それを一つずつおろしていこうとする。
ユ・ウォンの心理を最も表している冒頭から、ラストシーンに至るまで、新人作家のペク・オニュによって繊細に描かれる、ユ・ウォンの心の軌跡に深く寄り添ってもらえたら嬉しい。(吉原育子)

 

『ユ・ウォン』(ペク・オニュ/著、吉原育子/訳、祥伝社)