●本書の概略
恋愛をテーマとする洗練された絵と心癒される言葉がSNSで人気を博し、フォロワー数30万人、累計閲覧数500万ビューを超えるシン・ギルの作品たちから、過去約3年間で特に人気の高かったものを厳選し新たな書き下ろしを加えて書籍化した初のイラストエッセイ集。
「うまくやろうとするほどこじれて掴もうとするほど離れていく、蜃気楼のようなものが愛ではないだろうか」という作者の言葉通り、愛の姿は捉え難く時の流れとともに移り変わるものだが、本書はその揺らぐ感情や何気なく過ぎていく日常の一瞬一瞬を切り取って見つめ、大切に留めようとする。
4部から成る構成では、恋愛初期の甘いときめきから別れを経た後の思いまで様々な場面が描かれているが、激しい感情よりは穏やかな愛情、ささやかな感動、消えない悲しみに光を当てていて、読む人の気持ちにそっと寄り添ってくれるような一冊だ。
「ぼくはきみを思うとあれもこれも取っておきたくなる。
そしてその中で一番きれいなものをきみにあげたくなる。
つまりは、ぼくをきみにあげたいんだ」
―『ぼくをあげること』より
「きみが辛いとき最初に思い浮かべる人がぼくだったらいいな。
人前では何ともないふりをして、きみの痛みを押し包んでいても
ぼくにだけはありのまま開けて見せられるといいな」
―『最初に思い浮かべる人』より
「不可能な幸福を夢見る代わりに、すでに持っている幸せをより深く考え大切にするほうが、今の疲れた自分にとって生きる力となるのではないか。幸せな記憶は誰しもひとつくらい持っているものだから」
―『生きさせる記憶』より
●目次
1.きみを始めたぼくが好き
2.いつでもきみの一日の終わりにいるよ
3.きみを読んでいたなら、きみを失わなかっただろうか
4.ぼくたちの今は、やがてきみになりぼくになるだろう
エピローグ 今わたしたちがかけるべき言葉
●日本でのアピールポイント
日本で人気の韓国俳優が愛読書として紹介してから注目を浴びている。
あえて色味を抑えた落ち着きのある絵は主に恋人同士を思わせる男女が描かれていて、添えられた短い文は誰もが漠然と抱いたことのある微妙な心模様を優しい視点で言語化している。
愛というテーマは普遍的であるがゆえ一見ありきたりに映るかもしれないが、シン・ギルの私信のような言葉はささやかで何気ないからこそ多くの読者の共感を呼ぶのだろう。一方、ありふれた風景であるはずのイラストは彼の感性で描かれると特別な瞬間に見えてくる。絵の人物には表情がなく、見る者それぞれの持つイメージを自然と投影できる点も魅力の一つだ。
現在恋愛中の人はもちろんそうでない人も、幸せな日にも傷ついた日にも、静かに胸に響くフレーズがあるだろう。
作成:横本麻矢