●本書の概略
90年代以降の韓国フェミニズムをめぐる現象や事件を丹念に追った評論である。海外と国内のフェミニズムを考察するシリーズ一作目でもある。匿名の人々が大衆メディアの中心となったデジタル時代、民主化運動当時とは違いサイバーの世界で論争が展開された。アンチフェミニズム、女性嫌悪のサイトが発する言葉や感情の洪水の中で、動揺しながらも足がためを続けるフェミニストたちの活動が描かれる。筆者は多くの「オッパ」=「民主化運動の立役者たち」が自分の許容範囲内でフェミニズムを認めている、という態度に注目する。最終的に目指すのは「オッパに都合よく気にいられるフェミニズム」ではない。「オッパ」はまた、家父長制、とも読み替えられる。世代を超えて続くこの枠組みから誰もが解放され、共感しあえる社会が筆者のゴールである。このゴールに向かう運動は根気よく続けられなければならない。
●目次
はじめに
第1章:古い世代と新しい世代の衝突 1990年代
第2章:‘体に染みついた惰性’をめぐる闘争 2000~2009年
第3章:社会生活を堕落させた家父長制の暴力 2010~2014年
第4章:忍耐の臨界点と抵抗への転換点 2015年
第5章:‘恐怖’の被害者と管理者の衝突 2016年1~7月
第6章:‘構造’の被害者と利益を受ける者 2016年7~12月
第7章:フェミニズムとアンチ勢力の論理上の衝突 2017年1~6月
第8章:フェミニズムとろうそくデモの背信 2017年7~12月
第9章:‘第1次民主化運動’と‘第2次民主化運動’の葛藤 2018年1~3月
第10章:‘オッパが気にいるフェミニズム’の破綻 2018年3~4月
第11章:ジグザグに進む歴史 2018年4~5月
おわりに
●日本でのアピールポイント
日本では近年「感じのいいフェミニズム」の広がりが見られるという。周囲から叩かれないために、女性たちが洗練されたイメージでパフォーマンスを発揮している現象だ。経験を経てフェミニズムのありようも変化する。本書は韓国独特の問題として戸籍制度、徴兵制をめぐる論争をはじめ、小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の反響、#MeToo運動の波紋など日本でもなじみのある内容を取り上げている。複雑な状況に置かれた韓国のフェミニストたちの力強さも伝わってくる。また本書では、20代の男性がSNSに上げる女性嫌悪、さらに嫌悪による事件の本質を、社会的・心理的背景を通して読み解いている。こうした解説は、日本の社会現象を考える上でもヒントとなるだろう。各章末にある筆者自身の実感が込められた文章が素直に心に届く。本書の出版後に起きた出来事も多い。シリーズ2作目が待たれる。