●本書の概略
女性たちの人生を通して見た5.18民主化運動
1980年5月18日に光州市で起きた5.18民主化運動(光州事件)に端を発した韓国の民主化運動は、1987年の6月民主抗争に影響を与え、文在寅政権にまでその精神が受け継がれている。本書は5.18民主化運動から30年目の2010年に発行された『口述による光州の女性の暮らしと光州事件(구술로 엮은 광주 여성의 삶과 5.18)』に専門家の座談会の記録を加えて、書籍化したものだ。
これまで5.18民主化運動というと、学生・市民と鎮圧部隊の衝突を「点」でとらえて語ることが多かったが、本書では5.18民主化運動以前の時代からそれ以降までを、「線」で追っているのが特徴だ。女性たちが自ら体験を語る「オーラルヒストリー(口述記録)」となっているため、臨場感あふれた記述にも富んでいる。彼女たちの体験は、時に息苦しく、切ない。
良洞市場で商売をしていた女性たちは、市民軍におにぎりを提供した。彼女たちにとって、傷つき腹を減らしている人たちは、自分の息子であり家族同然だった。基督病院で傷ついた市民の治療や遺体の回収にあたった看護課長は、その後も鬱病に苦しみ、今でも「もっと多くの人を助けたかった」という悔いに駆られている。
彼女たちが語る言葉からは、当時の家父長制のなかの女性の立場・生活も見えてくる。「女は結婚した日から不幸だ」、「学校に行きたいと言うと、女が勉強をすると嫁ぎ先から手紙を書いてくるようになるから駄目だ、と父に反対された」など、彼女たちの無念さが胸に迫る。
5.18民主化運動を女性の体験から記した点で、韓国でも評価が高い一冊だ。
●目次
推薦の言葉
発刊の言葉
編集者より
1部:五月の始まり
2部:八十年五月、街で
3部:まだ終わっていない話
第1回座談会
第2回座談会
●日本でのアピールポイント
今年は5.18民主化運動から40年。これまで様々な作品で扱われ、映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』や、ハン・ガンの小説『少年が来る』などの作品は、日本でも紹介されている。本書は、5.18民主化運動の口述歴史としての価値も高く、現代韓国の政治状況を理解するにも大いに役立つ。同時に、1980年当時の韓国の女性たちが儒教社会の家父長制のなかで、どのように生活していたのかについても理解を深めることができる点で、本書の意味は大きい。登場人物たちは、『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公キム・ジヨンの母親世代だ。彼女たちが生きてきた社会を知ることは、現在広く読まれている韓国フェミニズム小説を理解するうえでも大きく役に立つと思われる。
作成:バーチ美和