『不便なコンビニ』(キム・ホヨン/著、米津篤八/訳、小学館)

2021年春の刊行以来じわじわ売れ続けてミリオンセラーとなり、2022年夏刊行の続編と合わせて累計150万部(2023年6月現在)という大ベストセラー小説『不便なコンビニ』の邦訳版が刊行されました。
舞台化されドラマ化も進行中、お店小説ブームや「Kヒーリング小説」というジャンル誕生のきっかけとなり社会現象を生んだ作品です。ソウルの青坡洞(チョンパドン)にあるひなびたコンビニ「Always」で働く、記憶を失ったホームレスの男と、店に集う客や従業員との交流を温かくユーモラスに、ノスタルジックに描いた8篇の連作短篇小説です。
著者のキム・ホヨンさんのインタビュー記事も公開されました。こちらもぜひ合わせてお読みください。
⇒ https://shosetsumaru.tameshiyo.me/M202307MADO27
翻訳者の米津篤八さんよりコメントを頂きましたので、ご紹介します。

ソウル駅とコンビニ。どちらも韓国を旅した人なら、一度は訪れたことがあるのではないでしょうか。実は、両者には一つの共通点があります。終身雇用制が崩れ、働き盛りの年齢で早期退職を迫られる韓国では、退職金でコンビニを始める人が増えているそうです。一方、ソウル駅には多くのホームレスが野宿し、コンビニの廃棄食品をもらうなどして命をつないでいます。つまり、どちらも競争社会から脱落した人々の避難所となっているわけです。
この二つの場所が、本書の舞台です。記憶喪失で自分の名も忘れ、「独孤(トッコ)」という仮の名を名乗る謎のホームレスと、ひょんなことからソウル駅で独孤氏と知り合い、自身の経営するコンビニの店員として雇う元教師のヨムさん。この二人を軸に、下町のほのぼのした日常がユーモラスなタッチで描かれていきます。そして周囲の助けで独孤氏が記憶を取り戻したとき、話は思わぬ方向へと展開していきます。本書はコンビニに立ち寄っては去って行く、そうした社会の片隅に生きる人たちの希望と再生の物語です。
(米津篤八)

また編集を担当された小学館の皆川裕子さんに6月23日配信の「K-BOOKらじお」で、本作を手掛けたきっかけ、皆川さんが特に気に入っている点などお話くださいました。ぜひこちらもお聞きください。⇒ https://youtu.be/K0_QCV7Hez0

『不便なコンビニ』(キム・ホヨン/著、米津篤八/訳、小学館)