『僕には名前があった』(オ・ウン/著、吉川凪/訳、クオン)

クオンから「セレクション韓・詩」シリーズ2冊目となる『僕には名前があった』(オ・ウン著、吉川凪訳)が出版されました。大山(テサン)文学賞を受賞した詩集です。詩人オ・ウンの経歴は韓国の詩人にしてはユニークです。ソウル大学社会学科を卒業した後、KAIST(韓国科学技術院)で修士号を取得。情報通信会社に勤務したこともあるそうです。こうした経歴は彼の詩作にも影響しているように感じられます。『僕には名前があった』は、「よく考える人」「望ましい人」「凍りつく人」「待つ人」「持つ人」……「人」がつながっていきますが、「人」の描かれ方が細かく、数字の使われ方も面白いのです。オ・ウンによる鋭い人の描写から、人を、自分を理解するのは難しいと気付かされます。そして、何と言っても特徴的なのは言葉遊びです。こんなに言葉遊びができるんだなと驚いているうちに、「人」と「人」がつながり、喜怒哀楽が描かれ、「人」で終わります。訳者の吉川凪さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

『僕には名前があった』にはたくさんの言葉遊びがある。たとえば、散文詩「一流学」は「人類(イルリュ)学科だと思って入ったのに実は一流(イルリュ)学科だった」という駄ジャレで始まり、ことわざや慣用句が多数顔をのぞかせる。「わかっているだけでは駄目だ 一流になるには理解して見なければならない 一流学科教授は人類になるより一流になるのが先決だと言った(…)じっくり見る方法ではなく、かえりみない方法だけ教えた まだ目がきらきらしている子たちには色眼鏡をかけさせた 目が高くなければ一瞬にして目がひっくり返ってしまうと言った 血眼にならなければまたたく間に眼中から消えると言った 授業中、目の高くない子たちがひと目で眼中から消えた 眼鏡にかなわないから目に余って目障りだと言った」。
数十年前の韓国詩壇なら、ふざけていると見られて相手にされなかったような作品だが、こうした独創性はオ・ウンが大学の文芸創作科のような機関を経ないで出てきた詩人であるからこそ得られたものかもしれない。読む人はしきりに繰り出される言語遊戯のジャブを受けているうちに、ふと気づくと異世界に引き込まれている。詩などわからないという人も楽しめるはずだ。(吉川凪)

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『僕には名前があった』(オ・ウン著、吉川凪訳、クオン)