『小さな心の同好会』(ユン・イヒョン/著 古川綾子/訳 亜紀書房)

亜紀書房の「となりの国のものがたり」シリーズ8作目となる『小さな心の同好会』(ユン・イヒョン/著 古川綾子/訳)が出版されました。
だれかの娘であり、妻であり、親であり、嫁であり、そしてそうでなかったりもする女性たち。既婚か、非婚か、それぞれの立場の葛藤と、立ち上がることの大切さを描いた表題作の「小さな心の同好会」、家族の必要性や、子どもを持つことについてLGBTカップルの葛藤を描いた「スンヘとミオ」、性暴力の被害者とどのように連帯できるのかを問う「ピクルス」など、身近な人との分かりあえなさとそれぞれの傷みを描いた短篇集です。「疑うドラゴン——ハジュラフ1」「ドラゴンナイトの資格——ハジュラフ2」のファンタジー連作小説や女性型ロボットが登場するSF小説「スア」からも、ユン・イヒョンさんの無限の創造力(想像力)と筆力、社会への鋭い眼差しを感じます。訳者の古川綾子さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

共にあった私たちがそうでなくなったという事実を、悲しく美しい思い出にはしたくない。同じ夢を見たことがそんなにも幸せで、実は同じ夢でなかったことがそれほどまでの苦痛でしかないのだとしたら、私たちは自分と似てない人とは決して生きていけないだろうから。(著者あとがきより)

これまでユン・イヒョンさんの文章やインタビューを読むたびに、自らの傷をさらけ出し、それを物語にする作家なんだな、でもそれってどれほどの苦しみをともなう作業なんだろう、そんなことを漠然と感じていました。
 韓国で刊行されたばかりの『小さな心の同好会』をはじめて手に取り、この著者あとがきを読んだとき、痛みや失敗も全部ひっくるめたありのままの過去を差し出すことで、さまざまな形の連帯を模索すると同時に、次の世代がより良い世界で生きられるように声援を送っているのだと腑に落ち、胸が熱くなったことを思い出します。
 そんなユン・イヒョンさんですが、李箱文学賞を主催する出版社の不当性に抗議するため、2020年1月に作家活動の中止を発表、現在に至っています。
「異なる、よく知らないという理由でお互いを憎み、永遠に背を向けることがないようにと願う気持ちから、私が過ごしてきたある時間を束ねた。この壊れて粉々になった言葉、まだ答えを知らない問いかけが対話のはじまりになってくれたらうれしい(著者あとがきより)」。
 この言葉のとおり、私たちの対話のきっかけとなるような作品を、またいつか書き始めてくれたら……。そう願っています。(古川綾子)

 

『小さな心の同好会』(ユン・イヒョン/著 古川綾子/訳 亜紀書房)