『舎弟たちの世界史』(イ・ギホ/著 小西 直子/訳 新泉社)

『原州通信』(清水知佐子/訳 クオン)や『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』(斎藤真理子/訳 亜紀書房)で、イ・ギホさんが軽妙に綴る、ユーモアとアイロニーに満ちた物語に魅了された読者も多いのではないでしょうか。待望の長篇小説『舎弟たちの世界史』が、小西直子さんの翻訳で新泉社からついに刊行されました。
韓国では刑務所などから出所した人に豆腐を食べさせる風習があります。韓国ドラマではお馴染みの光景ですが、大統領経験者の中で最も多くの国民に豆腐を食べさせたといわれている全斗煥。彼による軍事独裁政権下にあった80年代を舞台に、テンポ良く疾走感たっぷりと、恐怖感をひたひた漂わせて物語は進みます。もちろん、イ・ギホさんならではのユーモアとアイロニーも随所に盛り込まれています。
訳者の小西直子さんにメッセージを寄せていただきましたので、ご紹介します。

聞いてくれたまえ。これは全斗煥将軍が国を統べていた時代の話だ……。韓国文学界屈指の「ストーリーテラー」イ・ギホが語り聞かせる悲喜劇的な物語。舞台は80年代の韓国。ひとりの独裁者(怖い長兄)が大統領になるや大々的なアカ狩り、アカでっち上げの熱風が吹き荒れ、それによって人生を狂わされてしまう無力な庶民(舎弟)たちの話が「ユーモラスかつ軽やかに」語られています。苦い薬をオブラートに包んだかのように。話や場面が変わるごとに登場する「~たまえ」という作者の誘いかけに乗せられ、プッと吹きだしたりしながらすいすい読めてしまうけれど、油断していると、「あっ、苦っ!」。軍事政権下で様々な不条理を強いられ、ささやかな夢を奪われるごく普通の庶民の悲哀、苦痛、やるせなさ等々がオブラートを破って出てきます。時に笑い、時に心を痛め、広く社会というもの、また人間という存在そのものについても思いを馳せたりさせられる、面白おかしくも哀しい、奥の深い力作です。

『舎弟たちの世界史』(イ・ギホ/著 小西 直子/訳 新泉社)