第5回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」受賞者決定!

K-BOOK振興会、株式会社クオンの共催(後援: 韓国文学翻訳院)で行われた、第5回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールには、国内外から総勢113名の方にご応募をいただきました。ご応募いただき、ありがとうございました。

一次審査を通過した10名の作品を審査員(中沢けい、きむ ふな、吉川凪、清水知佐子、古川綾子)による厳正な審査を行った結果、この度次の通り、各作品の最優秀賞者が決まりましたので発表致します。(文中全て敬称略)

⇒ コンクールの詳細はコチラから

【受賞者より】
「하얀 배」最優秀賞 東峰直子さん

まさかの賞をいただき、驚きと感激でおぼれそうになりました。本当にありがとうございます。光栄です。地方で翻訳を学ぶ機会もなかったのですが、チェッコリ翻訳スクールがオンライン化され、先生方のご指導を受けることができたおかげです。心から感謝申し上げます。この作品に取り組んでいるあいだ、解釈に苦しみ、表現に苦しみながらも、行ったことのない中央アジアの風を感じ、歴史に思いをはせていました。今後も多くの作品と出会い、勉強を続けていきたいと思います。

 

 

 

「모멘트 아케이드」最優秀賞 廣岡 孝弥さん

韓国語の学習を進めるうちに文芸翻訳に興味を持ち、前々回より本コンクールへの応募を開始しました。
実際に取り組んでみてわかったのは、作品のセレクションの絶妙さでした。
毎回、2作のうち少なくとも片方はその後も深く心に刻まれる作品になります。
今回の『모멘트 아케이드』には一読してすぐ引き込まれ、日々翻訳を進めるうちにその世界にどんどん深く入り込んでいきました。
この作品で受賞できて感無量です。機会をいただいたことに感謝いたします。

 

 

*なお、惜しくも受賞には至りませんでしたが、次の方々も一次選考を通過されました。ここに掲載をさせていただきます(五十音順)。
飯田浩子、金子博昭、田野倉佐和子、中川あきこ、平野亜衣音、尹 朋美、吉本晶子、O.H

 

【総評】
世界は広く人の思いは繋がる 中沢けい(作家)

今回、このコンクールで初めて男性の受賞者が選ばれた。これは韓国語の翻訳を志す人の広がりを感じさせるできごとだ。また翻訳の水準はかつてより高くなっている。翻訳を志す人の背景には、韓国の文学作品へ興味関心を持つ大勢の人々がいる。それが実感できる選考会だったことをご報告します。
世界は広く、広い世界に生きる人はそれぞれの言語を超え共通の思いを響き合わせているという実感でした。御協力いただいたすべての方々に感謝申し上げます。

【審査評】
吉川凪(翻訳家)

1990年代半ばに書かれた「하얀 배(白い汽船)」は、主人公がカザフスタンに行ったりキリル文字で書かれたロシア語の単語が出てきたりするため調べるべきことが多く、翻訳に手間のかかる作品だ。そのせいか、最終審査に残った10人の応募作にはたいてい小さな間違いが少なからずあったが、ストーリーを理解するのに支障をきたすほどの誤訳は全般的に少なかったように思う。当選作は文章を正しく理解し、読者が内容を読み誤らないよう訳文にさまざまな工夫をしている点において特に優れていた。

清水知佐子(翻訳家)

「하얀 배」はいわゆる中編小説で、原書でいうと69頁とかなりの分量だったにもかかわらず、短い期間で全文を訳しきって応募された113人の方の挑戦に拍手を贈りたいと思います。回を重ねるごとに応募作のレベルがアップしていることもあり、いかに最後まで気を抜かず、適切な日本語を選んで原書の意味がきちんと伝わる訳文を作っているかということが最終的な評価の分かれ道になったように思います。推敲の時間を増やしたり方法を工夫したりすることで、さらにレベルアップされる可能性を感じました。


きむ ふな(翻訳家)

課題作は、いずれも主人公が自分の経験を語りかける文章になっています。記憶をたどる場面が多かった分、訳文の時制の揺らぎが指摘されました。「하얀 배」は1990年代を、「모멘트 아케이드」は近未来を舞台にしています。語り手は男性と女性ですが、そうした時代背景を意識した訳文(女性の役割語など)になっているかどうかに意見が交わされました。最近、勢いを増しているSF作品である「모멘트 아케이드」は、ジェンダーや今日の社会問題に敏感な韓国SFに対する理解も問われたと思います。

古川綾子(翻訳家)

応募してくださった皆さま、お疲れさまでした。「모멘트 아케이드」は原文がさほど難しくなく、意味を取り違えるような大きな誤訳も少なかったように思います。その分、基礎的な文法を無視していないか、SFというジャンルを意識しているか、時代背景に応じた言葉選びをしているかといった細かい点が重視される審査となりました。応募作のレベルがかなりアップしていることもあり、今後はさらに「作品の特性を考慮した翻訳」が求められていくのではないかと感じました。

 

授賞式は第4回受賞者と合わせ、11月18日(木)に下記の通り、オンライン配信でその授賞式の模様をお届けします。
https://k-bookfes.com/events/honyaku_contest/

また受賞者による邦訳2作品は、「韓国文学ショートショートシリーズ」として2022年初めに刊行予定です。どうぞご期待ください。