●本書の概略
国道が交差する場所にあるビマルは地図にも載らない小さな村だ。長距離運転手の休憩地として生活を立てていたものの、高速道路が建設されると素通りされるようになる。生活の糧を失った村はどうにか観光客を集めようとするも思うようにいかない。ところがある日焼死体が発見されたのを皮切りに、平原から更に5人の死体が見つかり、村の名は一躍有名に。事件を題材にした映画が村で制作されると、遺族を含む村人達は村を連続殺人テーマパークにしての金儲けを企む。
ベンナは子供の頃に現場で連続殺人犯を見た唯一の目撃者だ。しかし犯人は捕まらなく、証言の信憑性と人格を疑われ「お前は狂っている」とレッテルを貼られる。
ある日遺族のナジョが殺される。ベンナは彼女から死の直前に電話を受け、犯人は連続殺人犯ではないと確信するが、誰にも信じて貰えない。手掛かりを探しに向かった「殺人の歴史」博物館の管理人にその事実を話すが、後にその彼こそが連続殺人犯だと知る。しかし彼はナジョを殺したのは自分ではないと主張。ベンナは調査を続け、村人達が金儲けのために地下の配管からガソリンを盗んでいることを知る。そして事実を知ったナジョを殺害し、連続殺人犯の仕業に仕立てたのでは、と推測する。
一方、連続殺人犯が人を殺していたのは、自分の飼っている馬に与えるためだった。しかし村人がその大切な馬を拉致したと思い込み、ベンナを連れ配管がある地下へと向かう。彼はそこで村人を殺害しベンナに馬を見るよう迫るが、その馬は彼以外には見えない存在だった…。
どうにかひとり脱出したベンナは、道で5年前に死んだはずのオギという名の少年に出会い、「自分が狂っていると思うか?」と問われる。少女は答える。「私は狂っていない。」
●目次
一部、二部、作家あとがき
●日本でのアピールポイント
「生きるため」という言葉は時に方便となる。生活が追い詰められた小さな村の人々は、生きるために集団心理を形成し、非常識が常識にとってかわる。周囲の人間が揃って「お前は狂っている」という時、その中でそれを拒絶しひとり正気を保つことができる人間がどれだけいるだろうか。主人公の少女は村の人々に「狂っている」と決めつけられ疎まれても、最後まで「自分は狂っていない」とひとり叫び続け真実を追い求める。
本当に狂っているのは連続殺人犯か、村人か、少女か。正気と狂気の境界線はどこにあるのか。この本には連続殺人の犯人探しよりももっと深いミステリが描かれている。
(作成:繭羽)