『페인트(ペイント)』のイ・ヒヨンさん講演(韓国通信)

第12回チャンビ青少年文学賞受賞作『페인트(ペイント)』の著者イ・ヒヨンさんによる講演が5月14日、チャンビ釜山で開かれました。「よい親とは?」「親と子が理解し合うためには?」などの問いについて、著者と参加者がともに考える時間となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

イ・ヒヨンさんは短編『사람이 살고 있습니다(人が住んでいます)』で第1回金承鈺文学賞の新人賞大賞を受賞しデビュー。これまでにロマンススリラー短編『너는 누구니(きみは誰だ)』やYA長編『썸머썸머 베케이션(サマーサマーバケーション)』『보통의 노을(普通のノウル)』などを発表しています。この日のテーマとなった『ペイント』は低出産、少子化問題が深刻化した近未来が舞台のSFです。問題解決のため政府は養育・教育施設「NCセンター」を運営し、親が育てる意志のない子どもを引き取って「国家の子」として育てます。彼らは一定の年齢になると、実社会で自分の親となる人物を「面接」によって選び、成立すればセンターを離れてその家族の一員として生活します。タイトルはその面接(parent’s interview)の略語です。なかには、国家の子を迎え入れることで得られる特典目当てで申し込んでくる親や、関係がうまくいかずセンターに戻ってくる子もいます。彼らはどういう基準で親を選ぶのか、「いい親」とは、家族のかたちとは、などを考えさせられる物語です。
中学1年生の息子を持つイ・ヒヨンさんがこの物語を書こうと思ったのは、インターネットで見かけた児童虐待に関する記事がきっかけでした。韓国で2018年の一年間に虐待によって死亡した児童は28人で、加害者は実母(約54%)、実父(約30%)、実父母(約4%)と9割近くが親だったという内容です。この記事に対し「誰にでも子どもを産ませてはならない」「親の資格のある人だけが産めるようにすべき」などの書き込みが寄せられ、なかでも「自分には親の資格があるのか」「親の資格がある、ないという基準は誰がどう決めるのか」という書き込みに多くの反応が集まりました。イ・ヒヨンさんはそれらを読んで、もし子どもが親を選ぶ時代がきたらどうなるだろうと想像し、物語を構成したそうです。
「いい親」とはどんな親だと思うかとの参加者からの質問には「子どもに謝ることのできる親」ではないかと答えていました。自分の間違いに気づいても「謝ったら親の威厳が損なわれる」と謝れない人も多いが、自分は謝るよう心がけていると。また、親子関係、特に思春期の子との関係においては、お互いに相手の立場を考えることが大切だと話していました。例えば、子どもは「親は生まれつき親である」かのように錯覚しがちだが、そうではない。子どもが十五歳だとすれば、親も「親としてはまだ十五歳」であり、子どもと一緒に成長していく未熟な存在だ。そう思えば、子どもたちも親に対する理解を少しは深められるのではないかと。
子どもたちに伝えたいこととして「昔は『作家』『教師』など名詞形の職業が多かったが、今は『動画チャンネルを開設して何かを教える』など動詞形の職業が増えている。これまでになかった新しい職業が生まれ、既存のノウハウが今後も通用するかは未知数だ。そんな時代にあって大切なのは自分を信じること。人にどう言われようと自分を信じ、褒めてあげてほしい。それはいずれ大きな力になる」と話していました。
『ペイント』は主な登場人物たちが今後どうなっていくのか余白を残し、読者がさまざまに想像できる終わり方になっていますが、その後を描いた短編「모니터(モニター)」が今年発表されました。8人の作家の作品の続編やスピンオフ作品を集めたアンソロジー『두 번째 엔딩(2度目のエンディング)』に収録されています。(文・写真/牧野美加)