韓国の大型書店の一つ、教保文庫光化門店における8月の月間ベストセラー(国内小説)をご紹介します。すでに邦訳のあるリュ・シファ、コン・ジヨンの新作や、チョ・ナムジュの『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』、チェ・ウニョンの『쇼코의 미소(ショウコの微笑)』など、今年邦訳の刊行が予定されている作品がランクインしています。写真は週間ベストなので多少順位が違いますが、月間ベストと同一の作品となっています。なお、邦訳未刊行の書籍のタイトルは仮題です。
1位:『인생 우화(人生寓話)』 リュ・シファ著(ヨングムスル社、2018.7.30)
韓国を代表する現代詩人リュ・シファの寓話集。東欧で17世紀から語り伝えられている物語をもとにした寓話45編を収録しています。天使のミスでこの世の「愚か者」たちがポーランドの小さな村で暮らすことになり、突拍子もないさまざまな出来事が起こります。著者の初の詩集『君がそばにいても僕は君が恋しい』(1991)は100万部を突破したベストセラーで、邦訳版が蓮池薫さんの訳で、綜合社から刊行されました。
2位:『해리.1(ヘリ)』 コン・ジヨン著(ヘネム出版社、2018.07.30)
『愛のあとにくるもの』(きむ ふな訳 幻冬舎)、『私たちの幸せな時間』(蓮池薫訳 新潮社)、『楽しい私の家』(蓮池薫訳 新潮社)などの邦訳があるコン・ジヨンの5年ぶり、12作目となる新作長編小説です。光州市の特殊学校での性的暴力を告発した『トガニ―幼き瞳の告発』(蓮池薫訳 新潮社)と同じく、架空の都市「霧津市」が舞台となっています。進歩系メディアの記者である主人公は偶然、ある事件の被害者と出会い、その原因を究明する過程で「悪」の実体に直面します。タイトルは登場人物の名前であると同時に、解離性人格障害の「解離(ヘリ)」とも関連づけられています。全2巻。
3位:『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』 チョ・ナムジュ著(民音社、2016.10.14)
主人公キム・ジヨンを通して、韓国の女性が直面している社会問題、特に、就職、結婚、出産や育児によりもたらされる不条理な性差別や苦難を鋭い観察眼で描き出し、女性を中心とした多くの読者の心をとらえました。昨年、「教保文庫」と「Yes24」の両書店の年間ベストセラー2位に選ばれ、発売から約2年となる今も根強い人気を誇っています。今年3月にはガールズグループ「レッドベルベット」のメンバーが読んでいると発言したことで話題になり、販売部数が急増したそうです。斎藤真理子さんの訳で筑摩書房より12月刊行予定(仮題)。
4位:『소년이 온다(少年が来る)』 ハン・ガン著(チャンビ、2014.5.19)
5.18光州民主化運動を扱った小説で、命を奪われた少年、その家族、過去の活動で受けた暴力にいまなお悩まされ続ける人々など、章ごとに様々な立場の人物をオムニバス形式で描いています。昨年、イタリアの権威ある文学賞「マラパルテ賞」を受賞。文在寅大統領が今年の夏の休暇中に読んだことでも注目を集めました。邦訳版がクオンより井手俊作さんの訳で2016年に刊行。
5位:『내게 무해한 사람(私に無害な人)』 チェ・ウニョン著(文学トンネ、2018.6.30)
『쇼코의 미소』(ショウコの微笑)で注目を集めた新鋭作家チェ・ウニョンの小説集2作目です。昨年「若い作家賞」を受賞した、女性同性愛者の物語『그 여름(その夏)』をはじめ、10代後半から20代前半の女性主人公を中心に描いた中短編7編を収録しています。
6位:『아몬드(アーモンド)』 ソン・ウォンピョン著(チャンビ、2017.3.31)
短編映画の脚本や演出を手がけていた著者の初の長編小説で、第10回チャンビ青少年文学賞を受賞しました。脳の異常のため感情が欠落している少年と周囲の人々との関わりを通し、他人の感情を理解することの難しさや大切さを考えさせるヤングアダルト小説です。『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第6号でも紹介しました。
7位:『국수. 1(國手)』 キム・ソンドン著(ソル、2018.8.1)
19世紀の朝鮮時代を風靡した国手(囲碁や武芸、楽器、歌、絵、書などに秀でた人物)たちの人生を描く全6巻の歴史小説。本書も文在寅大統領が夏休みに読んだことで話題になり、売り上げが一気に伸びたそうです。
8位:『쇼코의 미소(ショウコの微笑)』 チェ・ウニョン著(文学トンネ、2016.8.10)
新人作家の初の小説集としては異例の10万部という販売部数を記録し、小説家50人が選ぶ「今年の小説」にも選ばれた作品です。「若い作家賞」を受賞した表題作『ショウコの微笑』をはじめ7編を収録。若い世代の悩みや苦しみを反映させた繊細な感情表現で、多くの読者の支持を得ました。『私に無害な人』の発売を機に、同作も再び注目を集めています。今年12月にクオンより邦訳刊行予定(仮題)。
9位:『날씨가 좋으면 찾아가겠어요(天気がよければ訪ねていきます)』 イ・ドウ著(シゴン社、2018.6.28)
ロングセラー『私書箱100号の郵便物』の著者イ・ドウの6年ぶりとなる新作長編小説。田舎の小さな書店を中心に繰り広げられる許しと癒し、愛の物語です。
10位:『바깥은 여름(外は夏)』夏限定特別版 キム・エラン著(文学トンネ、2017.6.28)
『どきどき僕の人生』(きむ ふな訳 クオン)や『走れ、オヤジ殿』(古川綾子訳 晶文社)などの邦訳があるキム・エランの小説集、夏限定特別版。赤い小鳥の絵が印象的な装丁です。李箱文学賞を受賞した「沈黙の未来」や「若い作家賞」受賞作「どこに行きたいですか」など7編が収録されています。『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第6号でも紹介しました。
(文/写真:牧野美加)