●本書の概略
人気SF作家キム・チョヨプの初エッセイ。著者の小説家としての歩みと共に読んできた本を紹介している。SFというジャンルについて説明を求められて答えを探すために本を読み、専門外のノンフィクションを書くために本を読む。そして小説を書くために本を読む。「想像力と知識は緊密につながっている」と述べる著者は、書き続けるために今まで興味がなかった分野の本も読み始める。偶然に出会った数々の本が思わぬ世界へ導いてくれる過程、そして読書が書くことにつながっていく過程を著者と一緒に体験しているように感じさせてくれる。
●目次
1章 世界を広げること
2章 読むことからつながる書くことの旅程
3章 本のある日常
●日本でのアピールポイント
SFは日本では売れるとは言えないジャンルと言われるが、韓国では、オンライン書店イエス24が 発表した『ブックインフォグラフィック』 4月号によると、2022年4月のSF本の販売量が先月比86.4%と急増している。また同月のSF本売り上げTOP20の内、韓国小説が55%を占めており(韓国聯合ニュース)その背景にはキム・チョヨプらの活躍があると言われている。日本でも翻訳本『わたしたちが光の速さで進めないなら』(著者経歴参照)がベストセラーになり知名度のある作家である。速いペースで次々と作品を発表することでも有名で、話のネタが入った風呂敷包みでも持っているのか、とよく言われるそうだ。しかし、このエッセイを通して著者が作品を生み出すために、膨大な読書をして地道に努力をしていることが伺える。小説を書いていて行き詰ったときに読んだ小説の書き方本の紹介も細やかで、書くことに関心のある人に参考になるだろう。そして、そんな手の内を見せるようなことまで書く著者の人柄もエッセイ全編を通して伝わってくる。出会った本によって意外な方向に導かれる楽しみを、読書好きの人なら共感できるのではないだろうか。そして本書で述べているSFや科学に対する著者の考え、作品を作り上げる過程を読むと、今まで関心のなかった人も一度SF小説を読んでみたくなることだろう。
(作成:寄田晴代)