訴える言葉たち――人権委調査官が出会った事件の向こうにある話(어떤 호소의 말들 인권위 조사관이 만난 사건 너머의 이야기)

原題
어떤 호소의 말들
著者
チェ・ウンスク
出版日
2022年7月13日
発行元
チャンビ
ISBN
9788936486815
ページ数
236頁
定価
16,000ウォン
分野
エッセイ

●本書の概略

2001年、韓国の国家人権委員会(人権委)が発足した。三権(司法・立法・行政)から独立した機関としての船出は、人権活動家たちの悲願だった。著者もその一人として市民団体で汗を流してきたが、その実績が認められ、人権委の調査官になる。それから20年、数多くの訴えに耳を傾け、地道に調査を続けながら、人々の人権回復に努めてきた。本書は、著者が調査官として経験したさまざまな出来事や思いを30の話に込めた、心の人権エッセイだ。

1部では、嘘をつき続ける申立人の心理や、人々の訴えを通して見えてきた差別や偏見、外国人労働者に対する固定観念、社内性暴力に見る人間の多面性などが語られる。また、ソウル地検での拷問致死事件を調査したときのようすや、その後の報道のあり方、国家権力の犠牲者の理不尽な現実についても伝える。

2部では、市民団体の活動家から人権委の調査官になるまでと、これまでに取り組んできたさまざまな職務や出来事が回想される。その時々に感じた悦びや哀しみ、後悔や憤りなどが率直に語られ、仕事に対する向き合い方、同僚たちとの友情や連帯にも言及する。また小規模事業者の労働問題や女性の生きづらさ、動物に対する尊厳の問題なども考えていく。

●目次

プロローグ 私たちは少し哀しくてかわいい存在
1部 訴える言葉たち
2部 たかがこれくらいの思いやり

●日本でのアピールポイント

人権委に寄せられる申立ての内容はさまざまだ。一見単純そうに思われる事案でも、詳しく調べると、一様に複雑な背景が見えてくる。だから調査官には、事実の向こうにある真実を推し量ろうとする「心」が大切だと語る。
一方で、社会から差別や偏見をなくすには「人権感受性」を育てなければならないとする。それは「小さな声に関心を持ち、考え、実践すること」であり、まさに本書のテーマとも言える。人権に関する著作は数多く存在するが、隣国の、現役の人権委調査官が綴ったエッセイは、おそらく本書が初めてだろう。著者が「勇気を出して」書いたと言うように、ここには20年間の調査官としての経験と思いがつぶさに綴られており、執筆にあたっての覚悟を感じる。昨日のことのように生き生きと語られる話の数々は、読み手の心にまっすぐ届いて深い印象を残す。申立てを受けても、すっきり解決して終わる事案は多くない。時には後悔や強い自責の念に駆られることもあるという。それでもぶれずに、仲間とともに楽しくこの道を歩き続ける著者の姿に、勇気と希望を感じる人も多いだろう。

(作成:大窪千登勢)

チェ・ウンスク
「2002年から国家人権委員会の調査官として働く。そこで出会った人々の声に、小さなスピーカーひとつでも繋げたかった。何か面白いことはないかと思いを巡らし、暇をみつけては読み、書き、北漢山(プッカンサン)に登る。ささやかでも誰かの慰めになる話を汲み上げたくて文章を書く」 本書の原作は、審査に合格した人だけが執筆するブログ「ブランチ」の出版プロジェクトで大賞を受賞した。