●本書の概略
かつてはみな「なぜ」「どうして」を繰り返す好奇心溢れる子どもだった。質問することを忘れ、大人になった私たちは本当にすべてを知っているのだろうか。西洋古典文学の研究者である著者がギリシャ・ローマ神話の登場人物にスポットライトを当てつつ、現代の学歴社会や画一化した教育、人間のあるべき姿について問いかける。世代間の葛藤、過度な欲望の危険性、共感から生まれる変化……社会の本質はいつの時代も変わらない。必要なのは質問する力なのだ。問題が起きた時だけではなく「常に」、一度ではなく「何度も」、自身に質問を投げかける者だけが得られる人生の答えがそこにはある。数千年の時空を超え、神々や英雄たちを題材に繰り広げられる授業は「人間らしさとは何か」を問い続けることこそが豊かな人生の鍵であると教えてくれる。
●目次
第0の門 どう質問するのか
第1の門 私は誰なのか
第2の門 人間らしく生きるとはどういうことか
第3の門 私たちは一体何のためにこれほど懸命に生きるのか
第4の門 どう生きれば満ち足りて幸せだろうか
第5の門 社会の一員として私は何ができるのか
第6の門 変化する社会で何を準備すればいいのか
第7の門 平凡な私たちの物語は歴史になり得るか
第8の門 他人を理解することは可能なのか
第9の門 うまくやっていくために何を学ぶべきか
●日本でのアピールポイント
日本では馴染みのないように思えるギリシャ・ローマ神話だが、実は身近な言葉の語源として生活に溶けこんでいる。神話自体を扱った書籍は数多く出版されているものの、現代人の生き方との共通項を視点に書かれたものは少ない。ありそうでなかった一冊。西洋古典の魅力を知ってほしいという著者の願いどおり、この本を入口としてギリシャ・ローマ神話の世界へ足を踏み入れる読者もいるだろう。「長い歴史のなかで読み継がれてきた古典こそ、豊かな人生のためのマニュアルである」と著者は語る。5年後、10年後……世界がどう変化しているのか、誰も想像できない混沌とした時代だからこそ神々の苦悩や人間の原点に思いを馳せ、自分自身を見直すことが必要なのかもしれない。
(作成:髙橋恵美)